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電子書籍のフリーミアム

 本日、朝日新聞に「タダで読ませて売り上げ増?ネットで本を無料公開の動き」という記事があった。最近、フリーミアムという考え方が非常に注目されている。この記事も、そのフリーミアムに注目して書かれているらしい(記事内では『フリーミニアム』という表記になっていたが、そういう呼称もあるのだろうか?)。

 クリス・アンダーソンの「フリー」という本を読んだ知人から、少し前にこのフリーミアムについて聞いたことがある。私はまだ同書を読んでいないので詳しい内容はわかっていないが、なんでもフリー(無料)のサービスで多くのユーザーを獲得し、その一部(5%程度?)をプレミアムユーザーにすれば採算があうというビジネス理論らしい。

 たしかに、インターネットが普及して以来、情報が無料で提供される環境が当たり前になったこの状況下で、情報に値段をつけるのは難しい。これまでのように「欲しければ(知りたければ)お金を払って下さい」というようなシンプルなビジネスモデルは通用しなくなってきたということだろう。しかし、少し使ってみた上で「これはいい」と実感すれば、対価を支払うことに対する抵抗はかなり軽減されるはずだ。その結果、売上が伸びる。この考え方は、たしかに今の時代にあっていると思う。

 電子書籍ビジネスでは、これまでもフリーミアムはあった。「立ち読み版」を無料で提供し、その内容を吟味してもらった上で完全版を購入してもらうというやり方は、まさにフリーミアムだ。実は、マイカの電子書籍では、一冊まるごと無料にするというマーケティングを2度、やったことがある。シリーズ作品の最初の一冊を無料にして、続きを買ってもらおうという戦略だった。いってみれば、一冊目だけ値段を安くする「ディアゴスティーニ」戦略だ。この戦略は、おかげさまで功を奏し、満足できる結果を出した。とはいえ、どの本でもやれる方法ではない。なにせ、一冊分の作品をタダで作家さんに書いてもらうことになるのだから、よほどその後のセールスに自信がないと提案できるものではない。仕掛けるほうも、ドキドキなのだ。

 しかし本心をいうと、わたしは書籍のフリーミアムにはあまり賛成できない。その理由はとても簡単で、作家が心血注いで書いた作品に対して「無料」という値付けをすることにとても抵抗感があるからだ。「一人でも多くの人に読んでもらいたい」という作家の気持ちは、よくわかる。そのために、フリーミアムは大変効果があるということも、よくわかる。わかりながらも、無料で提供するときに私の胸の奥がチクリと痛む。おそらくこの痛みは、「編集者の良心」、あるいは「作品に対するリスペクト」というものだろう。今後、もしフリーミアムが電子書籍の主流になっても、私は決してこの痛みを忘れないようにしよう。

コメント (10)

暁:

 いつも、「ディアゴスティーニ」の初版だけ買ってしまいます。フリーミニアム、という表記は間違いのようですね。
 アマゾンと著作者のやりとりについてのブログも拝読しました。編集者さんに全幅の信頼を置いて書ける作家は非常に幸せだろうなと感じもしました。
 何が言いたいのか分かりません、すみません。そんな感じですw

水瓶:

ボクもフリーミアムなるものには賛成できません。
やはり、価値あるものにはその価値に見合う対価を払うという経済の原則を外していると思います。こういう当たり前の原則を外していいんだという感覚が、今の経の混迷の原因の一つにある気がします。
似たような話で、中国の違法コピーの問題があります。CDなどでもアーチストがコピー商品の流通に対してむしろ歓迎するという風潮さえあるようです。それだけ自分の曲が広まってくれれば良いという考えなんでしょう。しかし、これは決して新しい考え方でなく、大量生産大量消費という考え方の典型です。大量生産を前提としない経済をどうやって作って行くかという今日的な課題の中に、このフリーミアムという問題もあると思っています。

高田潜水艦:

「フリーソフト」のドネイションのような扱い方ならば
理解できないこともないような・・・


同記事によれは「一万人限定」とされていて、いうなれば
イベント的な毛色が強いキャンペーン。
機能制限無しで試用期限まで誰でも自由にダウンロードして
フル機能が体験できる某Officeアプリのプレリリース版だって
クラックされちゃうリスクもありながら後日キチンと正規版
も売れ続けている訳ですし、

・ニーズがあるチャネル
・直接的な純利益ではなくプロモーションとしての展開
・保管図書など生涯教育などの分野での活用

としては有用な手法だと思います。
(言い換えるなら“儲かるビジネスには成りかねる”と。)

その意味では「初回第一巻を無料」というマイカさんとこ
のスタイルは一つのお手本かもしれません。
ただし、この場合は続編発刊が前提となってしまうため
著書が一冊しか無い作家さんでは少々辛いでしょうが・・


ただ、良い媒体なのに今ひとつ振るわない『電子書籍』という
新時代メディアにとって無料公開というのは良い起爆剤になり
そうなので
(たとえば『最新刊がタダでダウンロードできる』という口コ
 が広まれば、電子書籍そのものに注目が集まりますし更に
 多くのメーカーや企業が参入して新しい可能性が芽生えたり
 元気なマーケットになると思いますが)
良いか悪いかではなく“電子書籍を盛り上げる”という視点
からもうちょっとがんばっていろいろ試行錯誤していって欲
しいですね。

【蛇足】

わたしがよく利用する千代田中央図書館(東京/九段下)では
蔵書をPDFとしてダウンロードできるサービスがあります。
紙製の本をスキャニングして電子書籍としてWebにアップして
あり、来館して借りるのではなく“期限付き”でPDFデータを
借りる(DLする)訳です。
PDF化された蔵書はまだまだ少ないですが、保管スペースや
環境的な側面から見ても電子化はかなりスマートで合理的な
管理スタイルではないでしょうか。
もっと様々な方面に広がるといいですね。

BloodOcean:

Myspaceの日記(http://www.myspace.com/BloodOcean963)に書いた記事の二番煎じですが、全文無料公開、なぜGoogleブック検索を活用しない?という話ですよ。
Googleブック検索に期間限定の特設ページを設けて、GoogleAdで特設ページの広告を配信してアクセス数を上げたり、Amazonアフィリンクを設けて書籍版購入してもらえたりできるのに。
例えば、新作のスピンオフ作品をGoogleブック検索で公開して、ページにAmazonアフィリンク設けて、本編買ってもらうように誘導するとか。

利益を守り、活用を考えぬ。という路線はいかがなものか。

BloodOcean:

以上、Googleブック検索反対派の団体に言いたい一言。

申し立てすれば、既刊をうpされないわけだから、それをしてゆっくり新作の広告活動につかうべきだったかと。

BloodOcean:

まあ、Googleのことだから、Android/iPhone向けの閲覧環境を作るだろうし。
電子書籍のライバルにもなりうるから、電子書籍業界が反対しても無理がないですが。

連続投稿御免

興味深く読みました。

井上さんには「Free」をご一読されることをおすすめしますよ。Free戦略とは決して損をするものではなく、売上・利益を最大化する方法であることが理解できれば、決して著作物の安売りではないということがお分かりいただけると思います。

電子データの流通がこれだけ自由になっています。以前であればお金を出さなければ読めなかったものが、今は無料でBlogなどでバンバン読めるようになっています。そういったものが多くの人の注目を集めています。そしてその人達が商業的にも成功しています。ホリエモンの有料メルマガの話など、その一例でしょう。彼はあれだけで生きていけそうです。

水が高いところから低いところに流れるように、豊富なものは無料化していくということです。その流れをうまく使って、儲けましょう!ということです。


井上さんの著者に対するリスペクト、著作物に対するリスペクト、これは編集者、出版社としてとても大事なことでしょう。だからこそ、商業的に成功することが重要だと思います。

がんばろう!


真花:

多くの方に反応していただき、感謝です。
やっぱり関心が高いワードなのでしょうね>フリーミアム。

中さんの仰る通り、まずは「Free」を読むことですね。
そこでもう一度、今後どうやっていくべきか考えてみます。

おそらく、現状がすべてではなく、
もう一歩踏み込んだFreeビジネスモデルがあると思うのですよ。
それを模索してみたいと思います。

naomabuchi:

書籍販売、流通の慣習もあるのでしょうが、普通モノを買う時には手にとって試すとか、試食する行為があります。電子モノの場合手に取れないので様々な手法でサンプルを提示しています。その一つがフリーミアムなんだと思いますので、別段新しくも珍しくもない普通の宣伝手法だと思います。

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