リヴリーの中で、経済が生まれていた

レビュー&コラム

リヴリーというゲームがある。着せ替えやインテリアのアイテムを、ユーザー同士で交換して遊ぶタイプのやつだ。アイテムはぜんぶデジタルのデータで、現金のやりとりなんてどこにもない。それでも最近、この交換は釣り合っているとかいないとか、そういう話をよく見かけるようになった。

データでしかないのに、「釣り合う」の話ばかりしている

リヴリーでのやりとりは、基本的に物々交換だ。自分の持っているアイテムと、相手の持っているアイテムを交換する。値段はない。円もドルも介在しない、正真正銘のデータとデータの交換だ。

なのに、みんなその「価値」を数値に落とし込もうとする。ウィッシュ数(そのアイテムを欲しい人がどれだけいるか)や、過去のやりとりから割り出した相場みたいなものを持ち出して、「これは釣り合っている」「いや、それは相手が損している」というやりとりを、僕はよく目にするようになった。

「これ、釣り合ってなくない? ウィッシュ数ぜんぜん違うし」

そんな一言が、もう当たり前みたいに交わされている。誰かが号令をかけたわけでもないのに、気づけばみんな同じものさしで測っていた。

円も、たぶん同じことをしている

そこまで考えて、あ、これって為替と同じだ、と思った。円が高くなったり安くなったりするのも、結局は「買いたい人」と「売りたい人」のバランスでしかない。株価だって同じだ。会社の実態そのものが変わったわけじゃないのに、値段だけが毎日動いていく。

貝殻や石が貨幣として使われていた大昔の話を、なんとなく思い出したのはそのせいだと思う。あれも、誰かが「これは価値がある」と決めたわけじゃなく、みんなでそう扱ううちに、本当に価値があるものみたいになっていったはずだ。暗号資産も、同じことをしているんだと思う。手に取れるようなものは何もなくて、あるのは膨大な演算の結果だけなのに、みんながそれを信じることで、値段がついていく。実態があるようでない、でもみんなが「ここに価値がある」という顔をして扱うから、お金が実際に動く。経済って、たぶんそういう仕組みでしかできていない。

損得の話になると、なんだかつまらない

リヴリーの話に戻ると、この「釣り合う・釣り合わない」を言い出したのは、たぶん最初はごく少数の、古参というかコアなユーザーだったはずだ。それが今では、コミュニティの共通認識というか、ほとんど常識みたいな顔をして流通している。

そうなると、新しく入ってきた人はたまらない。ルールを教わってもいないのに、「この交換、釣り合ってないよ」と、わりとはっきり言われてしまう。悪気があるわけじゃない。ただ、その場のみんなにとっては当たり前すぎて、いちいち説明するようなことでもなくなっているんだと思う。でも、価値の基準を共有していない人に向かって「釣り合ってない」と言ったところで、それは困るだろうなと僕は思う。

この「釣り合ってる、釣り合ってない」も、暗号資産の「上がった、下がった」も、突き詰めれば同じことをしている。ウィッシュ数やレートを見比べて釣り合いを判定するのと、膨大な計算だけで値段がついた実体のないデータを見て「1000万円を超えた」「今のうちに投資しないと」と話すのとでは、数字を追いかけているという意味で大差ない。

正直、そのレベルの話になってしまうと、あまり面白いと思えない。みんなが信じるから価値になる、という仕組み自体はいいと思うし、否定する気もない。ただ、数字を並べて釣り合う釣り合わないと言い始めたり、値段のチャートに一喜一憂し始めたりしたとたん、さっきまでの不思議さがすっと消えてしまう気がする。

そんな事を考えていたら、ビットコインがまだ1円の価値もなかった時代のことを思い出した。サイトを訪れるだけで無料でビットコインを配るサービスがあちこちにあって、数百サトシ、数千サトシを、お小遣い感覚でみんなが配ったりもらったりしていた。SNSの中には「1サトシくらえ!」とか言いながら、ビットコインを投げ合うように配っているユーザーたちもいた。あの、お金と呼ぶにはあまりに頼りない数字を、じゃれ合うみたいにやりとりしていた空気のほうが、僕は好きだった。

実体のない場所に、みんなで勝手に価値を見出して、信じてみる。それ自体はきっと面白いことのはずなのに、レートだのチャートだの、真面目な数字の話になったとたん、急につまらなくなる。まだ誰も正解を知らない、頼りない気分のうちが、一番おもしろいんじゃないかなぁ。

秋葉 けんた

秋葉 けんた

IT系のライティングを担当。 書籍、雑誌、業界誌やWebコンテンツなど、コンシューマからB2Bまで幅広く執筆。また、広告やカタログ、導入事例といった営業支援ツールの制作にも携わる。年間におよそ200件の原稿を執筆。●これまでの主な仕事 PC/周辺機器(CPU/DVD・BD・HD DVD/LCD/プリンタなど)、基幹システム(CRM/ERP/SFA/SOA/帳票など)、ストレージ(SAN/NAS/LTO/SASなど)、セキュリティ(BIOS/UTM/情報漏えい対策/デザスタリカバリ/内部統制・コンプライアンス/ネットワークセキュリティ/メールセキュリティなど)、ネットワーク(KVMスイッチ/グループウェア/サーバ/資産管理/シンクライアント/ホスティングなど)、その他(.NET/BI/カタログ/各種戦略/導入事例/パートナー取材など)…ほか、多数執筆。●連絡先 メール:kenta@office-mica.com

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