ふんどしの話をすると、だいたい笑われる

レビュー&コラム

十年以上、ふんどしで暮らしている。人に言うと、たいてい一拍おいて笑われる。バカにされている感じではない。ただ、びっくりしているのだと思う。ふんどしって、戦国時代のイメージじゃないか。武士なの、忍者なの。そういう顔をされる。

パンツをやめた理由なんて、だいたい忘れている

きっかけは何だっただろう。たぶん、締め付けが嫌だな、と思ったあたりだ。ゴムが腰に食い込んで、汗をかいて、そのへんが赤くなって痒くなる。夏になるとそれが毎年やってきた。

ちょうど和服にも興味が向いていた頃で、和服とパンツの相性の悪さも効いていたと思う。着物を着てトイレに入ると、パンツが完全に邪魔をする。裾をどうにかしても、その下の一枚が言うことを聞かない。

そこで色々考えて、越中褌に行き着いた。布と紐だけの、単純なやつだ。お祭りで見かける六尺褌のような複雑な巻き方もいらない。

始めた頃は不安だった。支えているのが紐一本なのだ。ほぼ紐パンである。

大丈夫かこれ

と、初日は何度も思った。

十年続いた理由は、たぶんサイズがないことだ

でも、続いた。

なぜ続いたのかと聞かれると、答えは拍子抜けするほど地味で、「特に問題がなかったから」になる。腰の赤みは消えた。汗もたまらない。トイレは着物ごと巻き込めるから速い。洗えば手ぬぐいと同じ速さで乾く。不満が出る場所がひとつもないので、やめる理由も出てこなかった。

ただ、いま考えると、いちばん効いているのはたぶんサイズだ。ふんどしにはサイズがない。

僕は油断すると太る。そして頑張って痩せる。5キロ、6キロくらい平気で動く。パンツで生きていた頃、体重が動くたびに買い替えていた。面倒だし、金もかかる。太ったから買う、痩せたからまた買う。そのたびに、自分の体が「合わなくなった」という通知を受け取っている感じがあった。

ふんどしは、紐の締め方ひとつで済む。太っても痩せても、締め方が少し変わるだけだ。体が変わったことを、下着から告げられない。

考えてみれば、着物にもサイズがない。同じ着物を、太った年も痩せた年も着る。帯の位置が変わるだけだ。そういう思想の下着なのだと思う。僕はたぶん、着物を着ているうちにこっち側の考え方に馴染んでしまったのだろう。

昇り龍か、木綿か

ふんどしはAmazonで普通に売っている。買いやすい。ただ、検索すると昇り龍が出てくる。かなり派手なやつだ。修学旅行の学生が喜んで買いそうなデザインで、これを締めている人が目の前にいたら、僕はたぶんビビる。

赤いのもある。赤ふん。縁起がいいのかもしれないし、実際そういう理由で選ぶ人もいるのだろう。でも、僕は選ばない。

なんでだろう。暑苦しい、むさ苦しい。そういう言葉がすぐ出てくる。でも、よく考えると変な話だ。布の色が暑いわけがない。むしろ黒のほうが熱を吸うはずである。

どこから来ているんだろう、このイメージは。テレビで見た運動会の応援団か、正月の寒中水泳か。とにかく赤ふんの人は、たいてい大声を出している。汗をかいて、肩を組んで、何かを叫んでいる。あれを見て育つと、赤い布そのものに音量がついてくるのかもしれない。

僕はいつも黒だ。スティーブ・ジョブズじゃないけれど、着るものを決めておけば、そのぶん悩まなくて済む。毎朝、今日はどの柄にするかを考える人生を、僕は選ばなかった。

一時期は凝って、自作したこともあった。布を裁って、紐の長さに切った布を裾上げテープでくっつけただけ。それでもなかなか快適だった。

ただ、素材で失敗した。冷感素材、たぶんポリエステルだったと思う。夏に涼しくなるんじゃないかと期待したのだ。結果はひどかった。汗をまったく吸わない。肌の上に汗が残ったまま、貼りついてくる。涼しいどころではない。吸い取る素材を選べばよかったのだと、そのとき気づいた。

結局、木綿に落ち着いた。昔から使われてきたものが、いちばん良かった。当たり前といえば当たり前だ。

あと、紐が細いものは食い込んで痛い。紐にはある程度の幅があったほうがいい。締め付けないのが取り柄なのに、紐で締め付けていたら本末転倒である。

締め付けないので前立腺に良いという話も聞くが、こればかりは僕には検証しようがない。

銭湯だけ、話が変わる

服を着ているあいだ、ふんどしの話は笑い話だ。

ところが銭湯では、まったく違うことが起きる。知らない人に「いいじゃん」と声をかけられる率が、明らかに上がる。特にお年寄りの受けがいい。僕は「いいでしょ!」と自慢して、それで終わる。

面白いのは、そこから会話が続かないことだ。どこで売ってるの、とも聞かれない。付け心地はどうなの、とも聞かれない。たぶん聞きたいのだと思う。興味があるから声をかけてきているのだろう。でも、こちらは脱いでいる途中だし、向こうも裸だ。じっくり話をする場面ではない。それに、どう聞けばいいのかもわからないのだと思う。だから「いいじゃん」だけ置いて、去っていく。

結局、笑うほうも「いいじゃん」のほうも、手持ちの言葉がそれしかないという点では同じなのかもしれない。武士か忍者か、あるいは「いいじゃん」か。ふんどしについて話す言葉を、たぶん誰も持っていない。

今はパンツのほうがソワソワする

十年経って、ふんどしは何でもないものになった。涼しくて、締め付けがなくて、それだけだ。特別なことでもないし、今ではそれが自然になっている。

むしろ、たまにパンツを履くと落ち着かない。履き慣れていないのだ。腰にゴムがある感覚が、なんだかそわそわする。基準のほうが、いつの間にか入れ替わっていた。

花火大会で浴衣の人を見かけるたびに思う。祭りのときだけ六尺褌を締めるくらいなら、普段から越中褌でいいのに、と。

そう言うと、たぶんまた笑われる。

秋葉 けんた

IT系のライティングを担当。 書籍、雑誌、業界誌やWebコンテンツなど、コンシューマからB2Bまで幅広く執筆。また、広告やカタログ、導入事例といった営業支援ツールの制作にも携わる。年間におよそ200件の原稿を執筆。●これまでの主な仕事 PC/周辺機器(CPU/DVD・BD・HD DVD/LCD/プリンタなど)、基幹システム(CRM/ERP/SFA/SOA/帳票など)、ストレージ(SAN/NAS/LTO/SASなど)、セキュリティ(BIOS/UTM/情報漏えい対策/デザスタリカバリ/内部統制・コンプライアンス/ネットワークセキュリティ/メールセキュリティなど)、ネットワーク(KVMスイッチ/グループウェア/サーバ/資産管理/シンクライアント/ホスティングなど)、その他(.NET/BI/カタログ/各種戦略/導入事例/パートナー取材など)…ほか、多数執筆。●連絡先 メール:kenta@office-mica.com

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