【コラム】「鬼滅の刃」と「Game Of Thrones」が描いた多様性と共感の世界

今や知らない人はいない「鬼滅の刃」、稀に見る大ヒットで、単行本22巻の発売時点でシリーズ累計発行部数が1億を突破したといいます。10月16日公開の劇場版「鬼滅の刃」無限列車編は、公開から24日間で観客動員 1537万3943人(興行収入 204億8361万1650円)を達成。これはちゃんと知っておかねばと思い、先週末「鬼滅の刃」全22巻を読みました。

確かにとてもおもしろいストーリーで、引き込まれてあっという間に読み終えましたが、なぜここまでヒットしたかという理由までは正直よくわかりません。私には「正当派少年漫画」のように見えました。これまでにないもの……たとえば禰豆子のようなキャラクターは他作品には見られなかったようにも思えますが……そういうものが新鮮だったというような理由があるのでしょうか。

ただひとつ気になったのは、登場人物がとても多いのに加え、それぞれの人生がしっかり描かれているということ。この作品、味方も敵も多くのキャラクターが登場するのですが、なぜ彼(彼女)が今、こういう立場で登場したかといういきさつが、お話の中でとても丁寧に説明されています。

当たり前ですが、すべての人に過去があり、その結果、いまの状況が生まれている。そうすると、それまで「ひどい奴」「我慢ならない奴」だったのが、途端にとても気の毒に思えてきたり、愛しくなったりするのだから不思議です。

これ、なにかに似ているなあと思って考えてみたら、「Game Of Thrones」でした。あのドラマも、覚えられないほど多くのキャラクターが出てきましたが、どの人にも過去があり、共感できる部分がありました(もちろん、全く共感できない人もたくさんいましたが)。そういえば、「Game Of Thrones」も稀に見る大ヒット作品でした。いまを生きる人々の心をつかむのは、そういった「多様性」を認めるような作品なのでしょうか。

「鬼滅の刃」や「Game Of Thrones」を見ていると、人物の一面だけ見て「こいつは悪い奴」と決めるのはナンセンスであるということがわかります。人にはいろんな過去があり、その数だけ世界がある。彼には彼の、彼女には彼女の「世界の解釈」があり、自分が行く道を選んで歩いている。その姿を垣間見ただけで「あなたは間違っている」と言い切れるものなのか。

まさに今、アメリカの大統領選で2つの立場の違いが明らかになっていますが、それだって単純に2つなのではなく、選ばれる側、選ぶ側にはそれぞれの人生があり、そこから派生した「世界はこうあってほしい」という様々なビジョンがある。違う立場だと思っていた相手が、実は同じことを思っていたと言うこともあり得るのかもしれません。

……なんてところまで話を広げると、やりすぎでしょうか(笑)。ただ私は、できれば多面的な視覚を持っていたいと思います。といっても、「上弦の壱・黒死牟」的な多面的視覚ではありませんよ。

井上 真花(いのうえみか)インタビュアー

投稿者プロフィール

有限会社マイカ代表取締役。PDA博物館の初代館長。日本冒険作家クラブ会員。

長崎県に生まれ、大阪、東京、三重を転々とし、現在は東京都台東区に在住。1994年にHP100LXと出会ったのをきかっけに、フリーライターとして雑誌、書籍などで執筆するようになり、1997年に上京して技術評論社に入社。その後再び独立し、2001年に「マイカ」を設立。

主な業務は、一般誌や専門誌、業界紙や新聞、Web媒体などBtoCコンテンツ、および広告やカタログ、導入事例などBtoBコンテンツの制作。

プライベートでは、井上円了哲学塾の第一期修了生として「哲学カフェ@神保町」の世話人、2020年以降は「なごテツ」のオンラインカフェの世話人を務める。趣味は考えること。ライフワークは「1000人に会いたいプロジェクト」

井上真花の公式ホームページはこちら

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