体調が悪化した91歳の義父を療養のため、九州から東京へ引き取ることになりました。今回は一時的な滞在になる可能性もあるため、正式な転出・転入の手続きはあえて行わず、保険証や税金などの連絡先のみ東京に変更するかたちで対応し、今後の様子を見ながら判断することにしました。義父の体調と気持ちを最優先に考えた結果です。
実際に義父の移動と生活支援を進めていくなかで、痛感したのは「本人でなければ受け付けられない」手続きの多さでした。体調がすぐれず外出もままならない状態にもかかわらず、本人が窓口へ出向かなければならないケースは思った以上に多く、負担の大きさに驚かされました。
もちろん、代理人による手続きが可能な場合もあります。ただし、本人が直接行うことで手続きが簡略化されることも多く、代理ではかえって書類が増えたり、確認事項が複雑になったりするケースも少なくありません。本来であれば、本人が動けないからこそ周囲が代わって支えるべき状況なのに、「本人でなければ」という制度上の原則が大きな壁となって立ちはだかります。
たとえば、郵便の転送手続きもそのひとつです。かつてはがき1枚で済んでいた手続きも、近年は本人確認が厳格化され、本人確認書類の種類や提出方法が細かく定められています。今回は郵送で申請したものの、確認方法の違いにより手続きが完了せず、最終的には義父を連れて役所へ行かざるを得ませんでした。移動や待ち時間は、高齢の本人にとって相当な負担になります。
自動車の処分手続きでも、必要書類の多さに苦労しました。一部は事前に調べて準備していたにもかかわらず、現場で追加提出を求められることもあり、簡単には終わりませんでした。
今回の経験では、事前に生成AIなどのツールを活用し、必要書類や手続きの流れを整理・可視化しておいたことで、全体としては比較的スムーズに進めることができました。しかし、それでも窓口での説明や状況確認に時間がかかる場面が多く、「どんなに準備していても、現場では柔軟に対応しなければならない」という現実を痛感しました。
もちろん、手続きを簡単にしてしまえば、なりすましや不正のリスクが高まることも理解しています。けれども、生活インフラや行政サービスの多くが「別個に」「紙で」「窓口で」進められている現状は、高齢の当事者にも、それを支える家族にも大きな負担です。
高齢化が進むなか、この煩雑さや不親切さは、決して他人事ではありません。誰もが年を重ね、支える立場にもなる。だからこそ、制度そのものを「誰にとってもわかりやすく、負担の少ない仕組み」に変えていくタイミングなのではないか──そう強く感じた体験でした。