桐生旅で「安吾ゆかりの店/地」を巡る

先日、群馬&新潟のソースかつ丼ツアーの記事を書きました。この記事をメールニュースにも転載したところ、読者の方から「この記事を11時頃うっかり読んでしまって、お腹に響きましたー!」というリアクションが。すいません、とんでもない飯テロでしたね……。

ところで今回の群馬旅、実はもうひとつ「坂口安吾ゆかりの地を巡る」というテーマがありました。坂口安吾は新潟県新潟市生まれなので、安吾ゆかりの地といえば新潟というイメージがありますが、45才で群馬県桐生市に引っ越し、48才で亡くなるまでの3年間をこの地で過ごしたため、桐生市の中にもあちこちにゆかりの地があります。それを順に巡ろうというのが、今回の旅の主たる目的でした。

桐生市で生まれ育った二人の友人が、旅のガイド役を引き受けてくれました。彼らによると、桐生市には「安吾ゆかりの店」という札がかかったお店がいくつかあるとのこと。そこで、まずはそこを回ってみようということになりました。

「安吾ゆかりの店 壱」と書かれた札がかかっていたのは「芭蕉」という古民家カフェ。安吾の時代は料亭だったようです。競輪レースの判定に疑問を持ち、群馬大学工学部の電子顕微鏡で写真を調べようとした安吾は、その際にお世話になった周東隆一、小島市造をこの店に招き、南川潤や境野武夫と共に宴を設けたとのこと。このとき桐生がいたく気に入り、引っ越しを決めたそうです。

「安吾ゆかりの店 弐」の札がかかっていたのは、安吾の好物だった蒲焼きの老舗「泉新」。カフェ・パリスで泥酔し、暴れて留置場に入れられた安吾は、留置場から「泉新」のうな重の出前を頼み、同室の人にも振る舞ったそうです。

「安吾ゆかりの店 参」の札は、安吾が大好きだった団子の店「大野屋」にかかっていました。安吾は映画を見た帰り、よくこの店のみたらし団子を食べたそうです。当時の味を知りたくて、私も団子を注文しました。柔らかくて美味しいお団子でした。

次は四番ですが、四は死に通じる数として欠番となり、残るは五の札のみ。「安吾ゆかりの店 五」という札がかかっていたのは、南川潤の紹介で安吾が暮らしていた旧書上商店の跡地である「花のにしはら」にありました。店の脇には「坂口安吾千日往還の碑」という石碑があります。

「安吾ゆかりの店」という札は、この4軒しか見つかりませんでした。ほかにもあるんじゃないかと思ってネット検索してみましたが、情報は出てきません。「奈良書店」の店主が安吾に詳しいというので、後日、友人がお店を訪ねたところ、店主から「確かにこの4軒で終わり」という情報を得ました。なぜ店主が断言できるのかというと、その番号札を書いたご本人がこの方だったから。彼は「安吾を語る会」のメンバーで、その活動のひとつとしてこの札をご用意されたそうです。

ということで、「安吾ゆかりの地を巡るツアー」はいよいよ終盤を迎えます。二人の友人は、安吾が好んで歩いたという散歩道を案内した後、この場所に連れてきてくれました。

何度か登場した南川潤の生家と、桐生川畔に立っていた坂口安吾文学碑です。碑には「花の下には風吹くばかり」と書かれていました。一説によると、安吾が書き捨てた反故の中にあった言葉だとか。真偽のほどはわかりませんが、「桜の森の満開の下」を思わせる言葉です。

こうして、坂口安吾ゆかりの地ツアーは終了しました。当日、現地でガイドをしてくれた堀井塚さん、三井さん。そして東京から遠隔で情報を送ってくださったO谷さんに感謝します。みなさまのおかげで、坂口安吾の当時の暮らしを少しだけ感じることができました。心残りは、「泉新」の白焼きが食べられなかったことぐらいかしら。次回はぜひ白焼きをいただきたいと思います。

井上 真花(いのうえみか)インタビュアー

投稿者プロフィール

有限会社マイカ代表取締役。PDA博物館の初代館長。日本冒険作家クラブ会員。

長崎県に生まれ、大阪、東京、三重を転々とし、現在は東京都台東区に在住。1994年にHP100LXと出会ったのをきかっけに、フリーライターとして雑誌、書籍などで執筆するようになり、1997年に上京して技術評論社に入社。その後再び独立し、2001年に「マイカ」を設立。

主な業務は、一般誌や専門誌、業界紙や新聞、Web媒体などBtoCコンテンツ、および広告やカタログ、導入事例などBtoBコンテンツの制作。

プライベートでは、井上円了哲学塾の第一期修了生として「哲学カフェ@神保町」の世話人、2020年以降は「なごテツ」のオンラインカフェの世話人を務める。趣味は考えること。ライフワークは「1000人に会いたいプロジェクト」

井上真花の公式ホームページはこちら

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