【コラム】「命を最後まで使い切る」ということ

レビュー&コラム

8月15日未明、水城ゆうさんが息を引き取られました。昨年6月にガンの告知を受けたときは「余命1年」と宣告されていましたが、実際はそれから2ヵ月、命を長らえました。

昨年7月、私は水城さんが住む国立の春野亭に伺いました。ガンの告知を受け、水城さんがなにを思ったか、これからどうしていくつもりなのかということを聞き、ぜひ1000人インタビューの記事にしたいと思ったからです。

※1000人インタビューの水城さん記事はこちら。そのときの様子を撮影した動画もあります。興味のある方は、ぜひご覧ください。

水城さんと話をした後、私は、できる限り水城さんが企画するプロジェクトやイベントに参加しようと決めました。そこで、彼が考えていることをつぶさに見ておきたかったんです。

その間の水城さんの活動は、私の想像を遙かに超えてエネルギッシュでした。一番驚いたのは、7月17日にホスピスを退院した後の言葉。久しぶりにZoomに登場した彼が発したのは、「みなさんにお会いできて嬉しい。今日はまだちょっとバタバタしているけど、これから少しずつ復帰していくから待っていて」と言う言葉。

そのときの彼はとても痩せていて、一見、きちんと話せているのが不思議なほど。とても活動できる状況ではないと思うのですが、本人は全くそんなことを考えていないようでした。

それから1ヶ月。彼はピアノを弾き、連載小説(!)を書き、絵を描きました。新しい音楽表現を試してみたくなり、MacBookも新調しました。やれることは、全力でやる。その気持ちに、いささかの陰りもない様子でした。

なぜ、そこまでやれるのか? 水城さんを駆り立てる、その気持ちはなんなのか……? そんな私の疑問に答えてくれたのは、以前も別冊マイカでご紹介した翻訳家、島田啓介さん。島田さんがFacebookに投稿した内容を、こちらに転載させていただきます。

 これから、彼のことを引き継いで、ぼくはいろいろ発言していくと思うのだけど、明日骨になるはずの彼に会いに行く前に、ふたつの対談を聴き直して、重要な発言に出会った。
「島田啓介さんとのロング対談その1」で、正岡子規の「病床六尺」に言及して、彼が喀血しながら俳句を詠むのが「すごい」「こういう状況でよく書けるな」「どうやったらそこに近づけるかという謎を解き明かしたい」という発言をしている。
 水城ゆうは、そこを「誠実さ」という言葉で表しているけれど、彼は見事に子規の覚悟と対等な表現者として生をまっとうした。最後の1~2か月、とくにピアノ演奏で、発言で、彼はやり切った。それだけではない。まわりで見守っていた仲間(ぼくも含めて)のあり方もすべて彼の表現行為の一環だった。それが今わかったので、水城はある意味子規よりも広い形で晩年表現し切ったのだ。
 ここで彼の表現のテーマであり、生き方のテーマがズバリ語られているのでぜひ聴いて! ★この16分ころから聴いてください★

https://www.facebook.com/keisuke.shimada.12

彼が命の最後の一滴まで使い切って、この世に残していったもの。それは、私の想像を遙かに超えた、とても大きなプレゼントでした。島田さん同様、私もしっかり水城さんの意思を引き継ぎ、これからあちこちで発信していこうと思います。水城さん、たくさんの贈り物をありがとうございました! きっとまた、お会いしましょう!

井上 真花(いのうえみか)

井上 真花(いのうえみか)

有限会社マイカ代表取締役。PDA博物館の初代館長。長崎県に生まれ、大阪、東京、三重を転々とし、現在は東京都台東区に在住。1994年にHP100LXと出会ったのをきかっけに、フリーライターとして雑誌、書籍などで執筆するようになり、1997年に上京して技術評論社に入社。その後再び独立し、2001年に「マイカ」を設立。主な業務は、一般誌や専門誌、業界紙や新聞、Web媒体などBtoCコンテンツ、および広告やカタログ、導入事例などBtoBコンテンツの制作。プライベートでは、井上円了哲学塾の第一期修了生として「哲学カフェ@神保町」の世話人、2020年以降は「なごテツ」のオンラインカフェの世話人を務める。趣味は考えること。

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