ガラスのウサギが溶けた話でしか、戦争を覚えていない

レビュー&コラム

孫が夏休みの宿題で読書感想文を書いたらしい。それを聞いて、自分の時のことを思い出した。あれは大変だった。推薦図書から選ばなくてはいけなくて、その推薦図書というのが、戦争の悲惨さを伝える本ばかりだった。

ガラスのウサギ

小学生の頃に読んだ『ガラスのうさぎ』も、その一冊だったと思う。東京大空襲を描いた実話で、主人公の家にあったガラス細工のうさぎが、焼夷弾の熱で溶けてしまう場面がある。正直、感想文に何を書いたかはまったく覚えていない。覚えているのは、そのウサギが溶けた場面だけだ。

当時はたぶん、あまり実感を持って読めていなかったと思う。戦争は過去のもので、教科書と感想文の中にあるものだった。

今の戦争は、悲惨に見えているか

でも、戦争は今もあちこちで続いている。パレスチナ・ガザ地区では、たくさんの子どもが命を落としているという報道を見る。何人、という数字も出ているが、それを書き留める気になれない。調べるたびに増えているし、この記事が誰かに読まれる頃には、また違う数になっているはずだからだ。ただ、命がすぐに失われる場所が、今この瞬間にもあるということだけは確かだ。

過去の戦争は悲惨だった、と誰もが口を揃えて言う。ガラスのウサギが溶ける場面を読んで、みんな眉をひそめる。では今の戦争に対してはどうだろう。どの国が攻撃した、どちらが防衛している、ドローンがどう使われている。話題は多い。ただ、その悲惨さそのものを真正面から伝える報道は、案外少ない気がする。数字と、戦況の分析と、政治的な立場の話ばかりが流れてくる。

子どもが戦争に参加しているわけではない。何も悪くない子どもが、何もできないまま奪われて、死んでいく。それだけのことのはずなのに、うまく像を結ばない。ウサギが溶けた場面はあんなに覚えているのに、今まさに起きていることのほうは、僕の中で映像にならない。それが、後ろめたい。

数十年後のガラスのウサギ

数十年後、今この時代を振り返る本が書かれるとしたら、そこにはどんな場面が残るのだろう。溶けたガラスのウサギみたいに、たった一つのイメージだけが、感想文を書く子どもたちの記憶に焼きつくのかもしれない。

思えば、僕らが読まされた推薦図書のなかには、竹槍で飛行機を落とすと本気で信じていた時代の話も出てきた。今から見れば、正気とは思えない。ただ、その本を読んで感想文を書いた僕らが、では今の戦争に対して何かできているかというと、何もできていない。悲惨だ、いけないことだ、と感想を書く。それだけだ。あの竹槍と、どれほど違うのだろう。本を読んで眉をひそめている間に、現実のほうはいつも置き去りにされている。

そのとき僕らは、それをどんな顔で読むのだろう。当時はよくわからなかった、では済まされない気がする。今、僕はもう、感想文を書く側の年齢ではないから。

秋葉 けんた

IT系のライティングを担当。 書籍、雑誌、業界誌やWebコンテンツなど、コンシューマからB2Bまで幅広く執筆。また、広告やカタログ、導入事例といった営業支援ツールの制作にも携わる。年間におよそ200件の原稿を執筆。●これまでの主な仕事 PC/周辺機器(CPU/DVD・BD・HD DVD/LCD/プリンタなど)、基幹システム(CRM/ERP/SFA/SOA/帳票など)、ストレージ(SAN/NAS/LTO/SASなど)、セキュリティ(BIOS/UTM/情報漏えい対策/デザスタリカバリ/内部統制・コンプライアンス/ネットワークセキュリティ/メールセキュリティなど)、ネットワーク(KVMスイッチ/グループウェア/サーバ/資産管理/シンクライアント/ホスティングなど)、その他(.NET/BI/カタログ/各種戦略/導入事例/パートナー取材など)…ほか、多数執筆。●連絡先 メール:kenta@office-mica.com

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