「ワクワク」が奏でる音 「オタマトーン」

レビュー&コラム

YouTubeで公開されていた万博のライブ映像は、衝撃でした。学園祭のようなお祭りのような雰囲気。暑すぎて機材トラブルが起こり、音楽が一度止まってしまったというのに。それなのにものすごく盛り上がっている。青い作業服を身にまとった明和電機の代表取締役社長が、奇想天外な楽器を操りながら、落合さんと一緒に笑顔で音を奏でている。その光景は、何度見ても新鮮で、何度見ても楽しそうでした。

 

オタマトーンとの出会い

その中でも特に目を惹いたのが、オタマトーンという楽器でした。

音符をそのまま楽器にしてしまった、このふざけたようでいて実に素晴らしい発明品。見た目は玩具のそれですが、その手から繰り出されるメロディーは本物です。シッポを押して、顔をパクパクさせてビブラートをかける——それだけで、こんなに美しい音が出る。

そんなオタマトーンへの興味を深掘りしていると、驚くべき事実に出くわしました。

海外の人気オーディション番組『Got Talent España(ゴット・タレント・エスパーニャ)』に、なんとオタマトーンが登場したというのです。フアンホという奏者がオペラの名曲をオタマトーンで演奏して、審査員から「ゴールデンブザー」を獲得してしまった。YouTubeの動画も公開されており、その映像を見ると、最初は懐疑的だった審査員たちが、その演奏の美しさに惹き込まれていく様子が伝わってきます。

日本の中小企業のスタイルを模した「ナンセンスマシーン」が、国境を越えて、世界中の観客の心を動かしているのです。

さらに調べていると、YouTubeにはオタマトーンでセッションを楽しむ動画があふれていました。

もちろん、あのセッションに到達するには相応の練習と経験が必要です。複数のオタマトーンが集まれば、メロディーの層が増える。ハーモニーまでは作れなくとも、リズムとメロディーの重なりが、想像以上に豊かな音世界を生み出す。その「間」を学び、失敗を重ね、ようやく到達する無邪気な楽しさ。そこには、「隙」や「遊び」がある。その隙が、ワクワクを生み出しているんだと思います。

20年前のパソコンが教えてくれたこと

そう言えば、20年ほど前、パソコンの初期段階でのことです。Windows 95が動く小型のウルトラマンPC。なぜか電話の受話器になってしまった、あの奇想天外な製品。あるいは、ビデオテープほどのサイズに収まったリブレット。その裏蓋をこじ開けてHDDを交換するような、マッドなユーザーも存在した。

あの時代のパソコンは、何かが違っていました。単なる「便利な道具」ではなく、機械そのものがワクワクを提供していたんです。それは、デザインの面白さかもしれません。多機能性かもしれません。あるいは、完成度が低いからこそ、ユーザーが試行錯誤する余地があったからかもしれません。

オタマトーンも、同じような「何か」を持っているように感じます。完璧ではない。メロディだけ、単音のみ。でも、だからこそ、そこに何かが生まれる。創意工夫の余地がある。自分たちで音楽を作る喜びが生まれるのかもしれません。

ワクワクの復権

テクノロジーが進化し、AIが登場し、すべてが最適化される時代。私たちは次第に「効率」や「完成度」を求めるようになりました。

でも、本当に必要なのは、その先にあるんじゃないか。

明和電機とオタマトーン。落合さんとのセッション。そして、20年前のあのパソコン文化。これらに共通しているのは、ワクワクという名の不完全性です。

単音だからこそ美しい。不安定だからこそ人間らしい。完璧ではないからこそ、そこに人の手と心が入り込める余地がある。

僕もオタマトーンを手に取ってみようか。思わずそんな気持ちになりました。機械とのこの出会いが、再びワクワクを教えてくれるような気がしてなりません。ワクワクは、最高の楽器かもしれませんね。

秋葉 けんた

秋葉 けんた

IT系のライティングを担当。 書籍、雑誌、業界誌やWebコンテンツなど、コンシューマからB2Bまで幅広く執筆。また、広告やカタログ、導入事例といった営業支援ツールの制作にも携わる。年間におよそ200件の原稿を執筆。●これまでの主な仕事 PC/周辺機器(CPU/DVD・BD・HD DVD/LCD/プリンタなど)、基幹システム(CRM/ERP/SFA/SOA/帳票など)、ストレージ(SAN/NAS/LTO/SASなど)、セキュリティ(BIOS/UTM/情報漏えい対策/デザスタリカバリ/内部統制・コンプライアンス/ネットワークセキュリティ/メールセキュリティなど)、ネットワーク(KVMスイッチ/グループウェア/サーバ/資産管理/シンクライアント/ホスティングなど)、その他(.NET/BI/カタログ/各種戦略/導入事例/パートナー取材など)…ほか、多数執筆。●連絡先 メール:kenta@office-mica.com

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