【#0006】 「校了請負人」堀井塚さんに聞く、いい文章の書き方

1000人に会いたい PJ

堀井塚さんは、腕利きの編集者&ライター。以前、彼のメールのフッターに「その校了、請け負います」と書かれているのを見たときは、「なんてカッコイイんだろう」と惚れ惚れしたものです。実はマイカから出版された書籍のうち、何冊かは堀井塚さんのお世話になっています。その節は、きっちり校了を請け負っていただき、ありがとうございました。

職業柄なのか、堀井塚さんには日本語の使い方に強いこだわりがあります。彼は、少しでも不自然な文章を見つけると「日本語としてダメでしょ」「この文章は頭悪い」と言うので、彼の言うダメな日本語、頭悪い文章とはどんなものなのか知りたくなり、インタビューしてみることにしました。

井上 堀井塚さんの言う「ダメな日本語、頭が悪い文章」ってどういうもの?

堀井塚 いろいろあるけど、たとえば文末がずっと同じやつ。「朝、起きました。朝食を食べました。学校に行きました」なんて書いたら、それは小学生の作文レベルでしょ。大人が書く文章じゃない。

井上 そういうときはどう書けばいいの?

堀井塚 体言止めを挟んだりするのよ。「朝、起きました。朝食はトーストとコーヒー。食事が終わったら学校に行き」とか。さっきの文章と比べると、こっちのほうがずっとリズムがいいでしょ? 

井上 たしかに。なにかパターンがあるのかな。

堀井塚 パターンはないけど、リズムはある。声に出して読んでみればわかるよ。読むときは字面を見ているけれど、実は心の中で音読してる。だから、日本古来の「五七五」のリズムで書くと読みやすいし、美しい。そういう文章を書けばいいのよ。

井上 なるほど、他には?

堀井塚 言葉の使い方が間違っているとかは、ホントありえないよね。知らない言葉を使うときは、ちゃんと調べてから使えよって思う。たとえば、「これはすごい!と舌を巻いた」っておかしいでしょ。舌を巻いた状態で「これはすごい!」なんて言えるはずないし。すごすぎて言葉が出ない状態なら、「舌を巻いて」もいいと思うけどさ。

井上 前に「敷居が高い」と「敷居が上がる」という話もあったよね。

堀井塚 敷居は敷居だから、上がったり下がったりしない。「敷居が高い」は本来、「相手に不義理などをしてしまい、家に行きにくい、顔を合わせるのに気が引ける」って意味。もとの意味を知っていれば、そのぐらいわかると思うんだけど。

井上 そういう言葉、うっかりすると間違えて使っちゃったりしそうで怖い。

堀井塚 あまり使わない言葉をあえて使うのであれば、ちゃんと調べないと。そういうところで手を抜いてる、雑な原稿を読まされると吐き気する。文章書くからには、最低限、ちゃんと伝えたいことが伝わるようにしないと。

井上 はい、気をつけます。

堀井塚 たださ、ちゃんと書いても、誤解されることもあるよね。発信するほうにはスキル(文章力)が求められるし、受け取る方にはリテラシー(読解力)が求められるから。SNSでは、よく誤読してシェア拡散されちゃったりするけれど、そんなのは昔からあって、話には尾ひれがつくし、意図的に間違えて伝えることもある。関係性によってバイアスがかかり、悪くとられてしまうこともあるしね。

井上 そうか、今に始まったことではなくて、昔からそうなのね。

堀井塚 そう。だからこそ、できるだけ正しく伝えようとする努力が必要なのよ。伝えたいことがちゃんと伝えられるように、最大限やれることをやる。そういう誠意は必要だと思うよ。

井上 文章と誠実に向き合うのね。

堀井塚 運慶(13世紀頃の仏師)じゃないけど、丸太の中にある仏を削り出すようなもの。できる限り、その仏の形に近づくように心を砕いて掘り出すわけよ。でも、それを見た人がどう評価するかはわからない。そんなのは相手次第だし、どうにもならないよね。

井上 相手によって受け取り方が違うのは、もう仕方がないと。

堀井塚 言葉なんて共通認識だからね。俺みたいなおっさんが女子高生と会話できないのは仕方ないのよ、文化が違うから。そこはもう、そういうものと諦めて、それでもできる限り伝えるための努力をする。その覚悟が必要なのよ。

井上 まとめると、いい文章とは「1. 意味が通じる文章」「2. 読みやすい文章」「3. 美しい文章」ってことなのかな。

堀井塚 そうだね。伝えたいことが伝わるように正しい日本語で書くのが基本で、読みやすさはリズム、文章の美しさは言葉選びのセンス。この3つがそろえば、自動的にいい文章になるね。

井上 言葉選びのセンスを身につけるのは難しそう。

堀井塚 みんな写真撮るでしょ。なんで写真を撮るかっていうと、記録したいから、あるいは人に見せたいから。そのためにはまず、何を撮ったのか、わからないと始まらないよね。で、見やすくするために明るさとか彩度を調整したり。その次に考えるのは「映え」でしょ。ここが、センスが問われるところ。相手に読む気にさせるような文章、読みやすくて心地いい、美しい文章を作るために頑張るわけよ。

井上 最近、堀井塚さんが「うまい!」と思った人っている?

堀井塚 若い女性ライターさんにひとりいる。その人は天才。俺にはああいう風には書けない。言葉の選び方ひとつとっても、あれはまねすらできない。

井上 それこそ、センスよね。生まれつき持っているものなのかも。

堀井塚 まあね、そういう人にはかなわないよね。

井上 真花(いのうえみか)

井上 真花(いのうえみか)

有限会社マイカ代表取締役。PDA博物館の初代館長。長崎県に生まれ、大阪、東京、三重を転々とし、現在は東京都台東区に在住。1994年にHP100LXと出会ったのをきかっけに、フリーライターとして雑誌、書籍などで執筆するようになり、1997年に上京して技術評論社に入社。その後再び独立し、2001年に「マイカ」を設立。主な業務は、一般誌や専門誌、業界紙や新聞、Web媒体などBtoCコンテンツ、および広告やカタログ、導入事例などBtoBコンテンツの制作。プライベートでは、井上円了哲学塾の第一期修了生として「哲学カフェ@神保町」の世話人、2020年以降は「なごテツ」のオンラインカフェの世話人を務める。趣味は考えること。

関連記事

コメント

この記事へのコメントはありません。

マイカのニュースレターに登録

* = required field
TOP

お問い合わせ

CLOSE

お問い合わせ