【インタビュー】No.0030 発達障害でも諦めない!「童夢」まーさんの目指す世界とは

発達障害者を支援する会社「童夢」の代表で、NHK「ばりバラ」に出演したり、セミナーで話したりする中谷さん。実は彼女は私の幼な馴染みで、「まー」というあだ名で呼んでいました。そんな「まー」の次女で、今年31才になる亜希ちゃんは、重度の知的障害を併せ持つ自閉症。でも、最近の亜希ちゃんの様子をYouTubeで見ていると、そんな風には見えません。さて、まーはどんな魔法を使って、亜希ちゃんを支援しているのでしょうか。

井上 まーさんの娘さんは、自閉症なのよね。

中谷 そう、次女の亜希が知的障害を併せ持つ自閉症なの。どちらも最重度判定で、障害の程度としてはかなり重い方でね。

井上 それって、どういうこと? 知らない人のために、詳しく教えてもらえる?

中谷  (1)社会性の発達の質的障害、(2)コミュニケーション&想像性の質的障害、(3)興味についての限定という3つが、自閉症の大きな特徴。たとえば、私は亜希のお母さんだけど、亜希には「お母さん」という概念がない。彼女にとって私は「いつも近くにいる便利な人」(笑)。

井上 そんな亜希ちゃんを、まーさんはどうやって育ててきたの?

中谷 発達障害の人への支援方法は、その人その人によって違うのよね。亜希の障害がわかった当初、私は亜希とどう関わったらいいかわからなかった。それで、適切な支援方法を求めていろんなところに顔を出して勉強をしていくなかで、TEACCHプログラムとPECS(ペクス)を見つけたの。

井上 PECSとは?

中谷 アンディ・ボンディ(Ph.D.)とロリ・フロスト(MS.CCC-SLP)によって開発された、絵カード交換式コミュニケーション支援システム。PECSにはアプリ版もあって、亜希はiPadのPECSアプリを使っている。PECSのおかげで、亜希は上手に要求や気持ちを伝えられるようになったのよ。

井上 亜希ちゃん、自分の気持ちや希望を伝えられるんだ。

中谷 そうなの。PECSは教え方にルールがあって、そのルールに従って少しずつ要求の表出スキルを身につけていくんだけど、自分の内側で起こっている感情を表出するのは、実はとても難しいの。亜希ほど障害が重いと、そこまでは無理だと思っていた。だから、亜希が泣きながら「お母さん、悲しいです」とPECSで伝えてきたときは本当にびっくりしたのよ。ええっ、こんなことできるようになるの?って。

井上 それは、すごいことなんだね。

中谷 そうみたい。PECS開発者の先生方からも、「亜希ちゃんはPECSをとても上手に使いこなしているね」と褒めていただいたしね。

井上 PECSを選んだことが正解だったというわけね。

中谷 そうね。亜希に学んで欲しかったのは、自分が「あ!」と思ったタイミングで自分が考えていることを表現するということ。それと、生活の中で必要に応じて話ができるようになるということ。これらを学ぶのに、PECSはぴったりの支援システムだった。ただ、亜希がPECSで様々なコミュニケーションがとれるように教えるのは、準備が大変で、バックヤード担当の私は大忙しなのよ。(笑)

ぶっちゃけ、そういう準備は大変だし、我が子と向き合って実践してもうまくいかないという保護者も多いの。兄弟がたくさんいたり、シングルマザーだったりするとさらに難しいと思う。その点、私の子どもは亜希と姉の衣里だけだし、家族みんなが大きな病気もせずにいてくれた。関西には研修会もたくさんあって学びやすかったということもあり、環境に恵まれていたんだと思う。そのおかげで亜希は力を伸ばすことができたのよ。

井上 環境も大事なのね。

中谷 ただ、障害者支援には「ありのままの姿を受け入れて無理させない」という考えの人たちもいてね。そういう人たちに批判されることもあるの。たとえば亜希は感覚優位だから、自分が好む感覚を満たすことが好き。生活の中で使う身の回りのものを用いて遊ぶ天才なの。

井上 どういうこと?

中谷 たとえば亜希が4才の頃、玄関のほうで楽しそうな声が聞こえてきたから、なんだろうと思ってみたら、廊下にごま油を一瓶ぶちまけて、その上を裸になって滑って遊んでいた(笑)。あまりのことに、一回扉を閉めて見なかったことにしようとしたぐらいのショック(笑)。そのあと、亜希をお風呂に入れて何度も洗うけど、ごま油の匂いってなかなかとれないのよね。大変だった。

井上 そんなことが! それは大変そうだ。

中谷 でしょ。で、その人たちは「それが亜希ちゃんの楽しみだったらやらせてあげればいい」と言うの。でもそれは、私の考えとは違う。

私は、本人のありのままを認めるのと同時に、社会との折り合いも学んでほしいし、人としての成長も大切にしたいのね。亜希は、なにも好きで感覚遊びに没頭しているわけではない。ほかに遊び方を知らないから、わからないからそれをしているだけ。

そこに私がなにかしら支援のための仕掛け(フレーム)を設定すると、亜希はそのフレームのなかで考え始めたり、私が受け入れ可能なやり方で余暇を楽しめたりできるようになる。それによって、社会規範を理解しないまでも、どうすればいいかを考えて、社会的に受け入れられる行動をたくさん身につけてきてくれたの。

井上 なるほどね。そりゃあ、そのほうがいいと私も思う。とはいえ、大変だよね。亜希ちゃん、今30才だから、まーさんは30年間支援しているんでしょ?

中谷 そうよ。ずっと見ていなければいけないし、目を離せない。赤ちゃんを育てるお母さんは、みんなそういう時期を過ごしたと思うけど、ある期間を過ぎるとみんなそうではなくなるよね。でも亜希はずっとそうだから(笑)。それはもう、本当に大変。疲れたり、落ち込んだりすることもよくあるよ。

井上 そりゃそうよね。そんな大変なこと、どうやってまーさんは続けてきたんだろう。

中谷 なんでだろう? ……改めて考えてみると、よくわからないな。そんなことをゆっくり考える暇もなかったかも(笑)。でもまあ、自分の子どもだから、逃げるわけにはいかないし、なんとか育てなくちゃと思ってずっと対峙してきただけなんだけど。

亜希の障害がわかった頃は、正直かなり大変だった。でも、パニックや問題行動ばかり起こす亜希を見ていて、亜希が幸せな人生を歩むためにはコミュニケーションが取れるようになることが一番大切なんじゃないかなって思ったの。だから、コミュニケーション支援に取り組みたいと思ったし、それは私にとって苦ではなかった。

井上 「自分の子どもだから逃げるわけにはいかない」というけど、みんなそうなの? たとえば、グループホームや施設に預けたりすることもできるよね?

中谷 うん。なかには、追い詰められて生きていくことを諦めてしまう親子もいるよ。障害がある家族がいる世界では、決して珍しい話ではないのよね、悲しいけど。

井上 でも、まーさんはそうしなかった。

中谷 そうね。できなかったね。理由のひとつは、長女の存在やね。彼女の存在があったから、私、がんばってこられた。そうでなければ、続けられなかったと思う。

井上 長女の存在が大きかったんやね。

中谷 わたしは、授かった命である娘二人には幸せでいてほしいと強く思っていて、亜希も幸せでないと私も幸せと思えないし、亜希が嬉しいと私も嬉しい。亜希には、人として生まれてきた幸せをしっかり味わってほしいの。

支援を続けていれば、それまでできなかったことができるようになる。私はその手応えを、ずっと感じてきた。最初に話したような「感情の表出」とかね。そうすると、やっぱり感動するのよ。すごく嬉しいのよ。

だから私、これからもやめられない。もちろん年をとってきたから、体はしんどいよ。この先のことを考えて、少しずつ支援してくれる人にバトンタッチしていきたいと思う。自分が倒れたとき、誰も亜希の支援ができないと困るからね。

井上 そうね。これからは、ほかの人にバトンを渡していくことも考えていかないとね。

中谷 そう。亜希の今後のためだけでなく、私がやってきたことを人に伝えるという意味もある。そうやって、次の世代にバトンが渡していきたいと思うようになってきた。もしかすると、私の代ではうまくいかないかもしれない。

でも次の世代、その次の世代に伝えていくことで、いつかこの方法が多くの人に伝わり、亜希のように自閉症としては障害が重くコミュニケーションがうまく機能しない人たちが、自分の気持ちを伝えられるようになるかもしれない。そう思ったら、希望が見えてきたの。やっぱり、諦めてはいかんね。諦めないよ。

井上 真花(いのうえみか)

井上 真花(いのうえみか)インタビュアー

投稿者プロフィール

有限会社マイカ代表取締役。PDA博物館の初代館長。日本冒険作家クラブ会員。

長崎県に生まれ、大阪、東京、三重を転々とし、現在は東京都台東区に在住。1994年にHP100LXと出会ったのをきかっけに、フリーライターとして雑誌、書籍などで執筆するようになり、1997年に上京して技術評論社に入社。その後再び独立し、2001年に「マイカ」を設立。

一般誌や専門誌、業界紙や新聞、ネットコンテンツ、広報誌などの制作をするかたわら、電子書籍専門の出版社「マイカ出版」を立ち上げ、オリジナル作品をパソコンおよび携帯電話の電子書籍の販売サイトにて販売している。

プライベートでは、井上円了哲学塾の第一期修了生として、哲学カフェ@神保町の世話役を担当。趣味は考えること。ライフワークは「1000人に会いたいプロジェクト」

井上真花の公式ホームページはこちら

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