【#0012】熟練編集者、渡辺さんがインタビューのコツを伝授

20年ほど前、某雑誌の仕事でご一緒した渡辺幸雄さん。編集者としてのキャリアはとても長く、私にとっては尊敬すべき大先輩です。そんな渡辺さんにのお願いをしたところ、「いいですよ」と快くお受けいただいたので、早速お話を聞きました。腕利きのインタビュアーにインタビューするという、ある意味ハードルの高い挑戦でしたが、おかげさまでいい勉強になりました。ありがとうございました。

井上 渡辺さんはもともと編集者志望だったんですか?

渡辺 実はそうではなくて、いろいろやっていました。小さい頃から絵を描くのが好きで、大学のときは漫画研究会でマンガ描いていたし。

井上 え、マンガ!初耳です。

渡辺 誰にも言っていませんからね……(笑)。某出版社の雑誌に作品が載ったこともあるのですが、2作目ができず挫折して漫画家は諦めました。でも大学時代の漫研は楽しくて、とくに同人誌作りは面白かったですね。このとき、印刷の知識も覚えたし、「物作り」の楽しさを覚えたんだと思います。

その後、テレビ局でバイトして、番組制作も経験しましたが、テレビはとにかく人が多くて、仕事のスケールも大きい。同人誌で味わった「物作り」の楽しさとはまた違う世界でした。

井上 テレビってそうですよね。同じ「物作り」でも、出版とは違う。

渡辺 そうですね。卒業後は、音楽専門出版社のリットーミュージックに就職。音楽雑誌の制作に携わることになり、そこで編集の基本をイチから教えてもらいました。

井上 そこでは「物作り」の楽しさは味わえた?

渡辺 はい。仕事自体は面白かったし、大勢のアーティストにインタビューもできました。約10年間勤めましたが、次第にある思いが出てきました。ぼくは確かに音楽好きだけど、どうしても音楽マニアにはなれない。ひとつのことを、とことん追求するというタイプではないということに気づいたんです。

井上 なるほど。「好き」と「オタク」は違いますもんね。

渡辺 そう、ぼくはオタクにはなりきれない。専門誌にはそういうマインドが必要なんです。それがわかったから35才で退社し、しばらくフリーの編集者として仕事をしていたら、知り合いの編集プロダクションから「うちにこない?」と誘われたので、入社することにしました。

井上 編集プロダクションではどんな仕事を?

渡辺 いろんな媒体の仕事をしました。ちょうど電子手帳やが広まり、携帯電話のiモードが登場して、その関連の雑誌や書籍が増えた時期です。インタビューする機会も多くて、そこでリットーでの経験が活かせました。インタビューって難しい。スキルが試される仕事だと思います。

井上 まさに今、私は1000人インタビューをやっているんですが、気をつけなければならないことがあれば教えてください。

渡辺 基本は、相手の話をちゃんと聞いて理解すること。そのためにはしっかり下調べをすることが大前提です。たとえばアーティストなら、その人の作品を全部聞いて、どんなことを聞くべきか、あらかじめ考えておかなくちゃいけない。

井上 でも、インタビューしていると、あらかじめ準備しておいた質問とは全然違う話になることもありますよね。

渡辺 それはそれでいいし、むしろそのときこそ面白いインタビューになると思います。インタビューって、自分の思い込みを外していく作業なんですよ。想定していた流れとは別の流れが生まれ、意外な話が出てきたりすると、そこに新たな発見がある。そうすると、面白いストーリーが生まれてくる。そういうときは、聞いていて鳥肌ものです(笑)。

井上 人によっては、話が逸れたまま戻って来られないということもあるけど……(笑)

渡辺 あります、あります(笑)。自分の頭の中に組み立てていた質問の流れにいかに戻していくか、それはインタビュアーの腕ですね。

井上 それはかなりの高等テクニックですね。

渡辺 そう。インタビューは大変だと思います。相手の話をしっかり聞きながらそれを理解し、同時に、次にどういう的確な質問を聞くかを考えなければいけないから、頭は常にフル回転。すごく疲れます。

井上 媒体によっては、ストーリーありきでインタビュー記事を書かなくちゃいけないこともあります。そういうのって、どう思います?

渡辺 例えばペイドパブ(広告記事)や告知記事だと、確かにそういうこともあります。それが媒体の目的や特徴であれば、それに従うしかありません。ただ、最近、制作者の思い込みを優先させているものも多い気がします。はじめに結論ありきというか、予定調和に持っていこうとする。メディアとして、それは危険だと思います。

井上 お話しを聞いていると、やっぱり渡辺さんって生粋の編集者なんだなあと思います。

渡辺 そうかもしれません。若い頃はもちろん、自分でなにか生み出そうと四苦八苦していたけれど、ぼくがやりたいのは実はそうではなかった。小説家や漫画家は自分で強く表現したいものを持っている。私には、それより「こういうものを表現したい」と考えている人を手伝う仕事が合っていたのですね。それって編集ですよね。

井上 渡辺さんが編集者として大事だと思っていることがあれば、教えてください。

渡辺 編集にもさまざまな考え方やノウハウがあり、会社や編集部の独自の編集方針があります。どれが正解とは言えませんが、その人が伝えたいことを的確に理解し、対象となる読者にわかる形にアレンジして、ちゃんと伝わる形にするということでしょうか。

渡辺 編集プロダクションも15年前に辞めて、今はフリーランスでやっていますが、現在の仕事は実用的な原稿が多いんです。そこで一番気をつけているのは「過不足ない」ということ。限られた文字数で情報をきちんと伝えるために、必要な情報は全部網羅できているか、逆に余計なことは付け加えていないか、ですね。

井上 インタビュアーとしては?

渡辺 タウン誌や会報誌ではそれこそ一般の人や、工場や商店などの社長に話を聞く機会が多く、話題は不動産のことから和菓子づくりまできりがありません。結局、ぼくが得意だったのは「狭く深く」ではなく「広く浅く」だったので、逆にいろいろな人に対応できているのだと思います。

井上 なるほど、確かにオタクすぎるとその感覚が欠けてしまうのかも……。

渡辺 たとえば、初心者向けのセミナーも、回を重ねるごとに知識やスキルが積み上がっていくから、どんどんレベルが上がっていって、最後には初心者向けとはいえないような難解な内容になってしまう(笑)。

井上 そういうことって、たしかにありがちですね。

渡辺 だからぼくは、毎回自分をリセットし、クライアントや読者の気持ちになって内容を考えるように努めるようにしています。客観的かつ俯瞰的に認識できる立場の人は必要ですし、それこそが編集者の仕事なのかもしれません。

井上 真花(いのうえみか)インタビュアー

投稿者プロフィール

有限会社マイカ代表取締役。PDA博物館の初代館長。日本冒険作家クラブ会員。

長崎県に生まれ、大阪、東京、三重を転々とし、現在は東京都台東区に在住。1994年にHP100LXと出会ったのをきかっけに、フリーライターとして雑誌、書籍などで執筆するようになり、1997年に上京して技術評論社に入社。その後再び独立し、2001年に「マイカ」を設立。

主な業務は、一般誌や専門誌、業界紙や新聞、Web媒体などBtoCコンテンツ、および広告やカタログ、導入事例などBtoBコンテンツの制作。

プライベートでは、井上円了哲学塾の第一期修了生として「哲学カフェ@神保町」の世話人、2020年以降は「なごテツ」のオンラインカフェの世話人を務める。趣味は考えること。ライフワークは「1000人に会いたいプロジェクト」

井上真花の公式ホームページはこちら

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