【インタビュー】No.0009 妻を亡くして3年、今の心境を父、井上清継が語る

2016年6月21日、脳出血で母が亡くなりました。前日まで元気に暮らしていただけに、突然ひとり残されてしまった父は茫然自失。しばらくは娘である私と、父の妹である叔母のサポートなしでは暮らせない状態でした。それから3年。父はいま、天草の地で一人暮らしをしています。

先日、母の法事に参加するために実家に帰った際、父にインタビューしてもいいかと聞いたらOKとのこと。娘という立場だと聞きにくいことも、インタビューなら聞けそうです。この機会に、いろいろ話してもらうことにしました。

 毎日の食事はどうしているの?

 朝はトーストと味噌汁、コーヒー。味噌汁にはなんでも入れるよ。庭の畑でとったナスやトマト、きゅうり、かぼちゃ。豚肉や鶏肉を入れることもある。

 トマトやきゅうりを味噌汁に入れるの? それはなかなか変わってるね。

 ママが生きていたら、変だと笑うだろうね。でも、ぼくは味噌汁が好きだし、他に色々作れるわけでもないから、栄養バランスを考えてもこれがいいと思っている。ほかに誰かに食べさせるわけでもないし。

昼は買い物に行くから、スーパーで弁当を買って帰って食べることが多いね。夜はだいたいお刺身と、朝作った味噌汁。それと日本酒を飲む。たまに近所の人がおかずをもってきてくれたりするし、ゴルフにいったときはゴルフ場の食堂で食べるから、まあまあ健康的な食事をしていると思うよ。健康診断でも「問題なし」と言われているから、きっとこれが体に合っているんだと思う。

 日中はずっと一人?

 そうだね、ゴルフに行って友達と会ったり、近所の人が様子を見に来てくれたりすると話もするけど、なにもなければ1日中ひとりだから話し相手もいない。朝は1時間ほど散歩をして、途中で体操をする。そのとき、学校に行く子供たちと「おはよう」ということはあるけど、そのぐらいかな。

 ママがいたときはずっと彼女と話していたから、そりゃあミカが想像する以上に寂しいよ。でも、寂しいだけじゃないんだよ。実はそこに、底知れない自由がある。

 底知れない自由? どういうこと?

 誰にも気遣うことなく、自分の気の向くまま、好きなことができるという自由。ただ、ぼくはあまり怠惰な生活が好きじゃないので、そうはいっても規律正しい生活をしてしまうんだけどね(笑)。

だからといって、ママがいないほうがいいというわけではない。ママといたら、なんでも相談できるし、なにより毎日の生活が楽しい。彼女がいない世界なんて想像すらできないほど、ぼくと彼女は一心同体だった。ぼくが転職を考えた時も、退職を決めた時も、ママはいつも話を聞いて「それがよか!そうしなっせ!」と背中を押してくれた。それが本当にありがたかった。

でも今は、そんな相談をすることもできない。なにもかも、自分で決めなくちゃいけない。それはとっても寂しいし、心細いこと。でも、そこには「底知れない自由」もある。なんでも自分で決めていい、誰に気を遣わなくてもいい。好きなだけ本を読んでいいし、夜中に見たいテレビ番組があればそれを見て、朝寝坊してもいい。出かけてもいいし、出かけなくてもいい。この自由を支えているのが「いい孤独」なんだ。

 寂しいけど自由。どっちがいいんだろう。

 彼女が一緒にいてくれたら、と思うことは今でもある。でも、現にママはもういないからね。この状況を受け入れるしかないのであれば、それを「自由」ととらえてみよう。そうすれば、これはこれでかけがえのない経験。ママには悪いけど、夫婦のうち生き残ったほうだけが味わえる、かけがえのない自由だね(笑)。

 私やおばさんは、近くにいないでしょ。近くにいてくれたらいいなと思うことはない?

 そうね、年に数回会いに来てくれる程度がちょうどいいんじゃない? たしかにミカは1300キロ離れた東京にいて、いつでもすぐに会える距離ではない。孫たちや、ひ孫たちにも会いたいと思うけど、もし近くにいてしょっちゅう会いに来られたら、正直、ちょっと面倒だと思うかも知れないね(笑)。ミカに会うのは嬉しいけど、ミカたちがここにいる間はいつもと違う生活をするせいか、体調も狂うしね。

 それは申し訳ない(笑)

 人と会って話すのは好きだし、まして妹やミカは大事な家族だからね。会えるのは嬉しいよ。でも僕は自由を愛する人間だからね。不安や孤独を受け入れて、この気ままな生活を守りたいという気持ちはあるよ。近くには親切な隣人もいるし、かけがえのない友達もいるしね。ぼくはできるだけ、1日でも長く、この生活を楽しみたいと思っているよ。

 そういう気持ちなのね。話を聞いてよかった。私も、お父さんのこの生活が1日も長く続くように祈っているよ。

 ありがとう。たしかに僕はここで孤独だけど、天涯孤独じゃない。離れてはいるけれど、娘や妹がいつも気にしてくれているし、孫やひ孫もたくさんいる。幸せなことだと思っているよ。

井上 真花(いのうえみか)

井上 真花(いのうえみか)インタビュアー

投稿者プロフィール

有限会社マイカ代表取締役。PDA博物館の初代館長。日本冒険作家クラブ会員。

長崎県に生まれ、大阪、東京、三重を転々とし、現在は東京都台東区に在住。1994年にHP100LXと出会ったのをきかっけに、フリーライターとして雑誌、書籍などで執筆するようになり、1997年に上京して技術評論社に入社。その後再び独立し、2001年に「マイカ」を設立。

一般誌や専門誌、業界紙や新聞、ネットコンテンツ、広報誌などの制作をするかたわら、電子書籍専門の出版社「マイカ出版」を立ち上げ、オリジナル作品をパソコンおよび携帯電話の電子書籍の販売サイトにて販売している。

プライベートでは、井上円了哲学塾の第一期修了生として、哲学カフェ@神保町の世話役を担当。趣味は考えること。ライフワークは「1000人に会いたいプロジェクト」

井上真花の公式ホームページはこちら

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