【インタビュー】No.0007 小宮信夫教授が語る、最近の日本の犯罪傾向とは

日本で数少ない犯罪機会論の識者として、テレビや新聞などさまざまなメディアに登場している 小宮信夫教授。私は、日経DUALに掲載されている連載担当として、長年お世話になっています。その連載については、こちらをご覧ください。

「怪しい人に気をつけて」では子どもは守れない!小宮信夫の防犯・安全教室(連載バックナンバー) | 日経DUAL

先日起きた登戸事件の取材で立正大学にお邪魔した際、「私の1000人インタビューにもご登場いただきたい!」とお願いしたところ、快くお受けくださいました。DUALの記事には載せられなかった情報を、こちらに掲載いたします。

井上 以前、先生は「日本は防犯対策後進国」と言っていましたね。

小宮 はい。日本では、犯罪が起きるとその人自身になにか問題があって犯罪が起きたというように捉えがちです。これを犯罪学では「犯罪原因論」と呼んでいます。その反対に、犯罪が起きる場所に注目して分析する立場を「犯罪機会論」と言って、海外ではそれがもっとも重視されています。実は「犯罪原因論」を重んじている日本は、遅れているんですよ。

井上 防犯対策は遅れているけど、これまで日本は比較的安全な国と言われていました。

小宮 それは、日本特有の文化があったから。昔の日本人は、個人の自由よりも集団の秩序を重んじていました。だから、ちょっと変わったことがあったり、知らない人がいたりすると、すぐにそれに気づく。すぐ隣近所で噂したり、家族に告げ口したりする。ちょっとした監視社会です。だから、なかなか犯罪が起きにくかったんです。

井上 そういえば、おせっかいなおばさん、あちこちにいましたね(笑)

小宮 そうそう。そういう人の目が、城壁の代わりになって、それぞれの家を守っていたんです。それだけじゃなくて、たとえば集団の中で起きた犯罪を隠蔽して外部にバレないようにするようなところもあった。だから、なかなか犯罪が明るみにならなかったんでしょう。でも、最近はそうではなくなってきているようですね。

井上 どうして日本が変わったと思われたんですか?

小宮 たとえば、昨年マスコミを騒がせたスポーツ界のパワハラ問題。レスリングの伊調選手や女子体操の宮川選手、相撲の日馬富士など、いろいろありました。まるで急にいろんな問題が起きたように見えるけど、そうじゃない。実はずっと昔から、スポーツ界にはそういうことがあったんです。しかし、それが明るみにでることはなかった。内部で隠蔽していたんです。

小宮 もうひとつ、カルロス・ゴーンさんの逮捕もありました。あれは、日本で司法取引ができるようになった最初の事件ですが、司法取引って要はチクリの奨励ですから。「どんどんチクれ、チクった人の罪は問わない」なんていうものだから、ゴーンさんのことが好きではなかった人がチクりはじめた。今や日本はチクリ社会ですよ。

井上 そうなんだ……

小宮 会社でもそうですよ。たとえばね、昔は新人が会社に入ってくると、セクハラ部長が「おはよう」なんていいながら、お尻を触ったりしていたもので、それを新人が涙ながらに課長に訴えたところで「まあまあ、相手は部長だから。ここは我慢して」とか言って泣き寝入りさせられていた。最終的には鬱になり、自殺してしまったりね。そういうことがとても多かったんです。

ところが最近は、そうじゃない。新人が「部長にお尻を触られました」なんて言おうものなら、それがすぐに社長の耳に入り、どこかに飛ばされちゃうかもしれない。あるいは新人が警察にいって、部長を訴えるかもしれない。だから、部長は社内でセクハラ出来なくなるんです。

井上 それはいいことですよね?

小宮 ところが、残念なことに人間ってそう簡単に変わらないんですよ。部長はやっぱり、どうしてもお尻が触りたい。これまで会社のなかでその欲望をなんとかしていたんだけど、それがやれなくなった。そうしたら、どうすると思います?

井上 ええと……会社の外でやる?

小宮 そう。電車のなかで痴漢して捕まっちゃったりするんです。だから、そういう犯罪が増える。

井上 それはよくないですね。

小宮 つまり、日本はこれまで特殊な隠蔽社会だったんだけど、グローバル化し、世界標準になってきた。犯罪に走りたい人は、集団の中でできなくなったので、仕方なく集団の外でやるようなる。その結果、集団外の犯罪は増えるけど、集団内の犯罪は減る。それにともなって、集団によるプレッシャーで引き起こされてきた自殺も減ります。でも、結局、発生する事件の総数は変わらないんです。

井上 根本的な解決にはならないんですね……

小宮 そう。だから、日本お得意の「犯罪原因論」ではなく、世界基準にあわせて「犯罪機会論」に意識を変えていかなければならない。集団の外に、犯罪の機会を求め始めた人に、犯行をあきらめせる必要がある。物理的に犯罪が起きにくい環境を作っていくしかない。そのためには、景色をよく見て解読し、その場所が安全なのか危険なのかを見極めること。

(だれもが/犯人も)入りやすい場所
(だれからも/犯行が)見えにくい場所

小宮 この2つの条件を備えた場所は、犯罪機会論的に「犯罪が起きやすい場所」。できるだけそういう場所を避けるようにして、やむを得ず通らなければならないときは、周囲の様子によく気を配ること。これだけのことを実行するだけでも、かなりの確率で犯罪被害から逃れることができるんですよ。

井上 真花(いのうえみか)

井上 真花(いのうえみか)インタビュアー

投稿者プロフィール

有限会社マイカ代表取締役。PDA博物館の初代館長。日本冒険作家クラブ会員。

長崎県に生まれ、大阪、東京、三重を転々とし、現在は東京都台東区に在住。1994年にHP100LXと出会ったのをきかっけに、フリーライターとして雑誌、書籍などで執筆するようになり、1997年に上京して技術評論社に入社。その後再び独立し、2001年に「マイカ」を設立。

一般誌や専門誌、業界紙や新聞、ネットコンテンツ、広報誌などの制作をするかたわら、電子書籍専門の出版社「マイカ出版」を立ち上げ、オリジナル作品をパソコンおよび携帯電話の電子書籍の販売サイトにて販売している。

プライベートでは、井上円了哲学塾の第一期修了生として、哲学カフェ@神保町の世話役を担当。趣味は考えること。ライフワークは「1000人に会いたいプロジェクト」

井上真花の公式ホームページはこちら

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