目玉に見られて、僕は自分を見ていた

レビュー&コラム

虎ノ門ヒルズのTOKYO NODEで、トニー・アウスラーの美術展に行ってきた。アメリカの現代美術家で、映像を立体物に投影する手法を早くから手がけ、プロジェクションマッピングの先駆けのひとりとも言われる人だ。大きな球体にいくつも目玉が映し出されている作品は、とにかくインパクトがある。正直、ちょっと怖い。自分がその目玉を見ているのか、それとも見られているのか、だんだんわからなくなってくるからだ。

見ているのか、見られているのか

球体に浮かぶ目玉には、ときどき報道映像やSNSの画面が映り込む。無数の視線に囲まれて生きる僕らの日常が、そのまま裏返しになったようで、なんだか現代を風刺しているようだった。

冷静に考えれば、投影されている目玉が僕を見ているはずはない。ただの映像だ。でも、見られていると感じる。この「感じる」が厄介で、実際に相手が見ているかどうかとは、たぶん関係がない。僕が見られていると認識する、それだけで視線は気になり出す。見ているのは、いつも僕のほうなのだ。

そういえば僕たちは普段から、人からどう見られるかばかり気にしている。それがデフォルトになっている人が多い気がする。でも実のところ、人はそんなに他人に興味がない。みんな自分のことで精一杯だ。だとすると、僕らは大して見られてもいないのに、勝手に視線を感じていることになる。落ち着かないのはDNAに刷り込まれた癖みたいなものなんだろうか。遠い昔、草むらの視線が捕食者のものだった頃の名残なのかもしれない。

アートは、自分の認識を外から見せてくれる

アートにはこれまであまり興味がなかったのだけれど、実際に足を運ぶと結構おもしろい。自分がどう世界を認識しているかを、外側からもう一度眺めているような感覚になる。写真で見るのと、目の前にするのとで、印象がまるで違うこともある。あの目玉の球体も、画面越しでは伝わらない怖さがあった。その場の空気や大きさごと、こちらの感覚に食い込んでくる。

そういえば、と別のことを思い出した。少し前に、孫が僕の絵を描いてくれた。丸い顔にメガネをかけていて、とても可愛らしい。その絵の中の僕は、なんだか楽しそうにしている。

孫の目に、僕は楽しそうな人として映っているらしい。そうだといいなぁ、と思う。裏を返せば、孫は僕のことをちゃんと見てくれているということだ。これはずいぶん嬉しいことだ。同じ「見られる」でも、あの目玉の球体とはずいぶん質が違う。怖い視線もあれば、こうして温かい視線もある。どう見えるかは、結局こちらの受け取り方しだいなのかもしれない。

同じスプーンで

視線の話を突きつめると、世界のあちこちで続く戦争のことを思う。あれもきっと、お互いをよく見ているのだと思う。見た上で、相手の嫌がることを続けている。見ることは、必ずしも理解や思いやりにはつながらない。80年前の太平洋戦争でも、街は焼夷弾で焼かれ、原爆で消し去られた。見合っていても、これだけのことが起きる。

昔、天国と地獄はたいして変わらない、心持ちの問題だ、という話を聞いたことがある。どちらの世界にも、長すぎるスプーンしかない。柄が長すぎて、自分の口には食べ物が届かないのだ。自分だけ食べようともがいて、誰も口に運べずに飢えているのが地獄。同じスプーンで、向かいの人に食べさせ合っているのが天国。道具も状況もまったく同じで、天と地ほどに分かれる。分けているのは、相手をどう見るか、それだけだ。

あの目玉の球体と、孫の描いた絵。怖い視線と、温かい視線。その違いも、たぶん同じところにある。相手の視線を気にしているうちは、地獄側のスプーンを握っているのかもしれない。気にするのをやめて、向かいの人そのものをちゃんと見たとき、はじめてスプーンの柄の長さの意味が変わる。

隣にいる人に少し興味を持って、よく見てみる。案外そこから、悪くない繋がりが生まれたりするのかもしれない。

ドラクエじゃないけれど――光あれ、だ。

秋葉 けんた

秋葉 けんた

IT系のライティングを担当。 書籍、雑誌、業界誌やWebコンテンツなど、コンシューマからB2Bまで幅広く執筆。また、広告やカタログ、導入事例といった営業支援ツールの制作にも携わる。年間におよそ200件の原稿を執筆。●これまでの主な仕事 PC/周辺機器(CPU/DVD・BD・HD DVD/LCD/プリンタなど)、基幹システム(CRM/ERP/SFA/SOA/帳票など)、ストレージ(SAN/NAS/LTO/SASなど)、セキュリティ(BIOS/UTM/情報漏えい対策/デザスタリカバリ/内部統制・コンプライアンス/ネットワークセキュリティ/メールセキュリティなど)、ネットワーク(KVMスイッチ/グループウェア/サーバ/資産管理/シンクライアント/ホスティングなど)、その他(.NET/BI/カタログ/各種戦略/導入事例/パートナー取材など)…ほか、多数執筆。●連絡先 メール:kenta@office-mica.com

関連記事

マイカのニュースレターに登録

TOP

お問い合わせ

CLOSE

お問い合わせ