【週刊ポッドキャスト生活】#19 ポッドキャストに込められた想い

前回の記事では、ポッドキャストには国際的な仕様があり、その仕様に合わせるにはポッドキャスト名や更新日の情報、音声ファイルや動画ファイルのURLを記載した「RSS2.0」が必要という技術的な面を紹介しました。

それ以外に、RSSに記載する音声ファイルと、RSSと音声ファイルを公開するWEBサーバーも必要になります。

もともとRSSは、ブログの更新情報を知らせるために使われていたもの。音声ファイルも、当初は汎用性の高いMP3ファイルが一般的でした。WEBサーバーも、通常のホームページ公開に使われるものです。

ポッドキャスト登場以前、ストリーミング型のインターネットラジオでは「ストリーミングサーバー」と呼ばれるものが使われていましたが、WEBサーバーよりもスペックが高いものが必要なため、高価でした。しかも、同時接続数に制限があり、WEBサーバーの方が汎用的で安価でした。

汎用的な仕組みだからこそ誰でも参加できる

ポッドキャストの素晴らしかった点は、すでに利用されている汎用的な技術や仕組みを組み合わせ、国際的に誰でも使うことができる仕様として、必要最小限のルールで公開された点にあります。

これまで、音声や映像を広く伝えるには、国から放映権や放送権を許諾されたメディアや、コストの高いストリーミングサーバーなどが必要でした。そんな中で、自分のウェブサイトやブログなどに音声ファイルをアップする人が出てきました。ちなみに、YouTubeなどの動画共有サイトが登場する前の話です。

そのとき、個々にブログなどにアップした音声や動画を自動で収集し、iPodなどの音楽プレイヤーに半自動で転送して擬似的な放送を実現したものがポッドキャスト。ルールは最小限で、汎用的で誰でも使うことができる技術で作られました。つまり、特定の企業が独占するようなものではなく、一般の人でも誰でも発信ができ、誰でもポッドキャストのプレイヤーを作成できるものだったんです。

これまで広範囲での情報発信は特定の人しか使えませんでしたが、いちiPodユーザーが開発して草の根で広がり、民主的に獲得した情報発信方法がポッドキャストでした。最初にポッドキャスト用のソフトを開発したアダム・カリー氏は、元々はMTVのビデオジョッキーで、プログラムを勉強しながらソフトを作成しました。一般公開された後は、有志によってプログラマーが集い、ソフトのアップデートをしていきました。

その後、Appleが正式にポッドキャストをメニューに取り入れたことから、アダム・カリー氏が作ったソフトは不要になりました。私はこのとき、草の根で作られた民主的な情報発信の仕組みがAppleに正式に認められたということに感動を覚えました。

ネットキャストとポッドキャスト

前回も紹介した「第3回 JAPAN PODCAST AWARDS」の大賞や各賞の発表が3月17日に行われました。選考される番組の条件としては、ポッドキャストに限らず、音声コンテンツであれば良いということでした。そして、第3回の大賞を受賞したのは「ハイパーハードボイルド グルメリポート no vision」Spotify独占配信の番組となったようです。

番組自体は私も聞いたことはあって、テレビ東京が作成しており、時間をかけて取材をしていることが垣間見られました。これが高く評価されるのは理解できます。しかし個人的には、これが独占配信の番組であり、仕組み上は「ポッドキャスト」と呼べないものという部分に引っ掛かりを感じます。誰もが平等に情報発信ができるポッドキャストの文化的な成り立ちを知っているだけに、独占配信の番組がポッドキャストの冠を評した大賞を授賞することに、複雑な想いを抱いています。

とはいえ、選考の条件は満たしていますし、審査員の方にはその違いの意味や価値が理解されていないとすると、仕方ないとも思います。また、すでにポッドキャストは民主的なものではなくなったということも考えられます。成り立ちを知っている者の懐古主義かもしれません。

ところで、海外でも同様の議論は起こっているようです。

Netcast VS ポッドキャスト

2021年の後半から「Netcast(ネットキャスト)」という言葉が出てきているようです。独占配信やサブスクリプション番組はポッドキャストとは違い、ネットキャストと呼ぶべきだということを、ポッドキャストの仕組みを作成したアダム・カリー氏が発言しているようです。そうすると、ポッドキャストはネットキャストの1カテゴリということになると思います。

国際的な仕様が決まっている「ポッドキャスト」という言葉を冠するので違和感がありますが、「ネットキャスト」と置き換えるのであれば納得できます。しかし、ポッドキャストの言葉も浸透しきってはいない状況で、果たしてこの新しい言葉は浸透するでしょうか。音声に限ったことで言えば、以前から使われる「ネットラジオ」という言葉でも良いのかもしれません。

すでに誤用が広がってしまった状態なので、すぐに変わるものではないでしょうが、「ポッドキャスト」に込められた成り立ちや想いに想いを馳せると寂しいものがあります。

【チームマイカ】佐藤新一(ポトフ) 

投稿者プロフィール

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佐藤 新一

2005年から配信する古参ポッドキャスター 。

Whizzo Production 代表。広告代理店の営業や企画制作会社のWEBディレクターを経て独立。WEB制作・ポッドキャスト制作やライター業などを行う。
座右の銘は「常識とは、18歳までに身につけた偏見のコレクション」。

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