車中泊というと、決まって「エコノミークラス症候群が怖い」という話になる。実際、リスクはある。でも僕の実感で言うと、危ないのは車中泊そのものじゃなくて、その中の「ある寝方」だけなんじゃないかと思っている。
出張はいつもハイエースで行く。地方まで走って、途中は車の中で寝る。三週間くらい車中泊だけで過ごしたこともあるけれど、それでも身体はあまり疲れなかった。ちゃんと休めていたからだ。逆に言えば、休めない寝方をすると、車中泊は途端に身体に悪いものになる。その分かれ目の話をしたい。
まず、今夜これだけで寝られる
道具を揃える前に、最低限これだけ押さえれば身体は休まる、という話から。
身体を真っ直ぐにして、平らに寝る。 これに尽きる。膝を曲げて足が下がったままの姿勢を避けて、なるべく水平に近い形で横になる。シートを倒すだけじゃなくて、クッションやマット、丸めたタオルを使って、できるだけ体を水平に保つ。凹凸があると無意識に体が緊張して血行不良の原因になるから、段差を埋めるのが肝心だ。
本当にこれだけでいい。特別な道具はいらない。セダンでも軽でも、いま乗っている車で今夜からできる。まずは「平らに寝る」。ここだけ押さえてほしい。
危ないのは「シートを倒して寝る」あの姿勢だ
なぜ「真っ直ぐ寝る」がそんなに大事なのか。
エコノミークラス症候群が問題になるのは、たいていシートをリクライニングして、そのまま寝ているときだ。長時間同じ姿勢でいると、足の静脈に血の塊ができやすくなる。それが動いた拍子に肺まで飛んで、血管を詰まらせる。飛行機の狭い席で起きるから「エコノミークラス」と呼ばれている、あれだ。
シートを倒しただけの姿勢は、身体が真っ直ぐにならない。膝が曲がって、足が下がったまま固定される。だから血が足元に溜まって、むくむし、身体も休まらない。真っ直ぐ寝るというのは、この「足元に血が溜まる時間」をなくすための姿勢なんだと思う。
ただ、寝る姿勢を正しても、同じ体勢で何時間も固まっていれば血は滞る。だから寝方とは別に、もう二つ。
ときどき足首を動かすこと。 足首を時計回り・反時計回りに10回ずつ回す、かかとの上げ下げを20回。これだけでふくらはぎが血を押し流してくれる。寝る前に一度、夜中に目が覚めたときにでもやっておく。
水を我慢しないこと。 トイレが近くなるからと水分を控えると、かえって血が固まりやすくなる。こまめに飲む。
日本赤十字社も、窮屈な空間で長時間過ごさないこと、水分を十分にとること、定期的に体を動かすことを予防策として挙げている。平らに寝て、時々足を動かして、水を飲む。この三つが揃えば、車中泊はちゃんと休める場所になる。
もっと快適にしたい人へ ――「平らな床」を作り込む
最低限はこれで足りる。ここから先は、車中泊に慣れていったり、平時に備えておきたい人向けの話だ。
僕のハイエースには、いまベッドキットを組んでいる。といっても大層なものじゃなくて、棚を作るための骨組みを買ってきて、そこに板をのせているだけ。板といってもDIYした畳だけど。その上にキャンプ用のスリーピングマットを敷いて、寝袋で寝る。これで当然フラットに真っ直ぐ眠れる。
普通の車でも、やり方はある。以前ハスラーに乗っていたときは、シートアレンジでなるべくフラットに近づけていた(https://vanwork.jp/?p=7689)。それでも段差は出る。一番簡単なのは市販の三角形の隙間埋めクッションを差し込むこと。これでだいぶ平らになる。車種ごとに厚みが違うので、適切な厚みのものを用意しよう。
DIYが得意なら、板を買ってきてウレタンを貼り、布で包みんで簡易ベッドキットにしてしまうのもいい。軽自動車(ハスラー)でも、かなり快適に眠れた。ホンダのシャトルで荷台に寝ていた時期もあって、あれは元から平らなスペースが取れるので、ほとんど手を入れずに済んだ。
| 車種 | フラット化の手間 |
|---|---|
| ハイエース(ベッドキット) | 骨組み+板を組めば、あとは敷くだけ |
| ハスラーなど軽 | シートアレンジ+段差埋めが必要 |
| シャトルなどワゴン | 荷台がほぼ平ら。ほぼそのまま |
平らな床さえできれば、あとは足し算だ。窓にシェードを貼る、扇風機を入れる、窓を少し開けて風を通す。網戸になるシートも便利だった。必要なものを一つずつ足していけば、車内はどんどん快適になっていく。土台はあくまで「平らに寝られること」。そこだけは動かさない。
トイレを我慢しないための、小さな設備
水を我慢しないためには、「いつでも用を足せる」という安心が要る。だから僕は、車に簡易トイレを積んでいる。
正体はただのペール缶だ。普段はクッションを敷いて椅子として使っている。トイレにするときだけ、中にビニールを被せて、上に便座を乗せる。「ペール缶用便座」という商品がちゃんと売られていて、缶にビニールを張って便座を取り付けるだけで洋式トイレに早変わりする。使わないときは便座を缶の中に収納できるから、見た目はただの椅子か物入れだ。僕が使っているのは20リットルのペール缶にはまるタイプ。金属缶にはU字型、プラスチック缶には合わせ型と、缶の素材で合う便座の形が違うので、買うときはそこだけ注意したい。
用を足したら、吸水ポリマーで液体をジェルに固める。あとはゴミとして縛って捨てるだけだ。防臭袋に入れておけば匂いも気にならないし、衛生面も心配ない。ペール缶は椅子にもゴミ箱にもなる。一つで何役もこなしてくれるのが、地味に気に入っている。
そして、このポリマーと防臭袋の組み合わせは、じつはトイレ以外にも効く。歯磨きだ。排水のない車の中でも、コップに防臭袋をセットしてポリマーを少し入れ、そこに吐き出せばいい。液体はジェルになり、そのまま袋を縛って捨てられる。このとき、山善のポリ袋ホルダーがあるとさらに便利だ。折りたたみ式で仕舞う場所を選ばないし、袋の口をぱちっと留めてくれるから、コップに袋をかぶせる手間がぐっと楽になる。断水していても口の中を清潔に保てるというのは、思っている以上に気持ちを支えてくれる。同じ道具が、まったく別の場面で活きる。備えというのは、こういう使い回しが利くものほど強い気がする。
トイレを置くスペースがない車なら、小さなテントを一つ持っておくといい。車の脇にさっと立てて、その中に簡易トイレを設置すればいい。着替えや目隠しにも使えるから、一つあると何かと便利だ。
夏はもう一つ、置く場所の話
この時期に忘れちゃいけないのが暑さだ。夏の車中泊は、下手をすると熱中症のリスクがある。だから車を止める場所そのものを選ぶ。できれば日陰。車内の温度が上がりにくいところに置くだけで、ずいぶん違う。スポットクーラーを用意できれば、アイドリングしなくても車内を冷やせるので、これはかなりおすすめ。エンジンを切ったまま涼しく眠れるのは、正直、快適の次元が変わる。
車中泊は、いまや避難所の選択肢の一つに数えられている。プライバシーが保てて、慣れた自分の空間で眠れる。悪いことばかりじゃない。ただ、こういうのは普段からやっていないと、いざというときには使えない。何が要って何が要らないかも、一度やってみないと分からないものだ。
僕にとっての車中泊は、まず遊びだ。知らない土地で夜を明かすのが単純に楽しい。その延長線上に、たまたま「もしものときの備え」がぶら下がっている。順番はきっと、それでいい。