父(91歳)の東京移住をAIでサポートしてみた(1)

ChatGPT

熊本で十年間一人暮らしを続けてきた九十一歳の父が、今年に入って「急に心細くなった」と打ち明けてきました。電話越しの声は思いのほか弱々しく、なんとかサポートできないか考え始めました。しかし私は夫と二人、都内の小さな1DKに住んでいます。一緒に暮らしたいという父の願いは痛いほど分かるものの、物理的に同居は不可能です。そこで「わが家の近くにサービス付き高齢者向け住宅を借りてはどうか」と提案しました。サ高住なら安全面も医療面もサポートが手厚く、東京に来れば孫やひ孫と気軽に会えるという希望にも応えられます。

この話を聞いた父は、東京行きを前向きに受け入れましたが、「自分では引っ越しの段取りがまるでできない」と弱音を吐きました。確かに九十一歳の身体で荷造りや役所の手続きをこなすのは酷です。そこで私たち家族が全面的に引っ越しを支援し、移住計画を主導することにしました。

しかし実際に準備を始めてみると、やるべきことは雪崩のように押し寄せてきます。施設の見学予約、契約手続き、熊本の自宅整理、粗大ごみの回収手配、医療機関の紹介状取得、転出入届、引っ越し業者の選定。これから暑い夏を迎えることを考えると、残された時間はわずかしかありません。いったい何から手をつけ、どの順番で進めれば最短距離でゴールにたどり着けるのか。考え始めるだけで頭が痛くなりそうです。

AIをプロジェクトマネジャーとして活用

そこで私は生成AI――具体的にはChatGPT――を「プロジェクトマネジャー」として招き入れることにしました。まず父の状況と希望、タイムリミット、現在判明しているタスクを詳細に入力し、「必要な作業を漏れなく整理し、日付順の工程表を作ってほしい」と依頼しました。

AIは瞬時に、施設選びから転出入届までを網羅したチェックリストと、入居日から逆算したスケジュールを提示してくれました。さらに各タスクにかかるおおよその所要時間や、外部に委託すべき作業、父に説明するときのポイントまで細かくコメントを添えてくれます。

私はその内容をそのままNotionに貼り付けてプロジェクトボード化し、進捗管理を始めました。こうして記録しておけば、「何かを忘れているかもしれない」という漠然とした不安から解放されます。手もとに確実な”レール”が敷かれた感覚を得ることができました。

AIと共に歩む移住計画

現在、計画は順調に進行中です。サ高住は自宅の近くにある施設に決まり、父の居室にはシンプルなベッドとお気に入りの本棚を運び入れる予定で、家具の選定も始めました。熊本の自宅はそのまま残すことにしましたが、ある程度は片付けて置かなければなりませんし、家の管理をどこかにお願いしなければなりません。私が現地入りして作業できるのは、だいたい1週間。その間に、必要な手続きと梱包を終わらせる段取りをまとめました。

こうした準備は、AIが可視化した工程表なしには到底及ばなかっただろうと実感しています。

体験記として連載します!

せっかくなので、この一連の作業をブログで連載しようと思います。第一回の今回は計画の全体像とAI活用の背景をお話ししましたが、今後は施設決定までの細かな比較検討、引っ越し準備のリアル、当日の実況、そして費用総まとめまで、ありのままを記録していくつもりです。

遠距離介護や親の住み替えで悩む方、生成AIをタスク管理に活用したい方にとって、私たちの試行錯誤が少しでも参考になれば幸いです。次回は「サ高住を決めるまで編」をお届けする予定ですので、興味のある方はぜひ引き続きお読みいただければと思います。

井上 真花(いのうえみか)

井上 真花(いのうえみか)

有限会社マイカ代表取締役。PDA博物館の初代館長。長崎県に生まれ、大阪、東京、三重を転々とし、現在は東京都台東区に在住。1994年にHP100LXと出会ったのをきかっけに、フリーライターとして雑誌、書籍などで執筆するようになり、1997年に上京して技術評論社に入社。その後再び独立し、2001年に「マイカ」を設立。主な業務は、一般誌や専門誌、業界紙や新聞、Web媒体などBtoCコンテンツ、および広告やカタログ、導入事例などBtoBコンテンツの制作。プライベートでは、井上円了哲学塾の第一期修了生として「哲学カフェ@神保町」の世話人、2020年以降は「なごテツ」のオンラインカフェの世話人を務める。趣味は考えること。

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