DX社会に置き去りにされる高齢者

スタッフコラム

今朝、父から電話があった。彼は、ちょっと恥ずかしそうに「ゆうパックの不在票が入ってたんだけど、再配達の申し込みがうまくいかなくてね」と言った。

携帯電話で手続きをしようとして、画面のどこを押せばいいのか分からなくなったらしい。追跡番号を聞いて私が代わりに申し込んだら、すぐに解決した。そのことを父に伝えたが、電話の向こうの父の声は沈んでいた。

「ぼくはなにもできないね」
そう言って自嘲気味に笑う声を聞き、私はなんともいえない気持ちになった。

再配達はそこそこ複雑な操作を要求されるので、スマホや携帯電話に慣れていない人は戸惑う。まして高齢者なら、なおさらだ。最近は郵便や銀行、電気料金の支払いにいたるまで、スマホやネット操作が前提になっている。DX(デジタルトランスフォーメーション)が進むのは時代の流れだとしても、そのなかで立ち尽くしている人たちがいることを忘れてはいけない。

たとえば、病院の受付でマイナンバーカードを保険証代わりに使う仕組み。カードを置く向きが違っていたり、顔認証がうまくいかなかったりして、とまどっている高齢者をよく見かける。機械の前で呆然と佇むその背中には、時代から置いていかれる不安がにじむ。

コンビニのレジでも似た背中を見ることがある。現金を自分で機械に投入するタイプの支払い方式が増え、操作がわからないまま周りの人に気を遣って慌てている高齢者は珍しくない。ちょっとしたことなのに、そういう経験が重なると「迷惑をかけてしまう」と萎縮してしまうのだろう。

便利さを追い求めることは悪くない。マイナンバーや自動支払機などは、私も普段から便利に活用している。しかし、だからといって便利の裏にある「使いこなせない人」を捨て置いてはいけない。

父の「困った」の声に、そんな社会のかたちが透けて見えた朝だった。

井上 真花(いのうえみか)

井上 真花(いのうえみか)

有限会社マイカ代表取締役。PDA博物館の初代館長。長崎県に生まれ、大阪、東京、三重を転々とし、現在は東京都台東区に在住。1994年にHP100LXと出会ったのをきかっけに、フリーライターとして雑誌、書籍などで執筆するようになり、1997年に上京して技術評論社に入社。その後再び独立し、2001年に「マイカ」を設立。主な業務は、一般誌や専門誌、業界紙や新聞、Web媒体などBtoCコンテンツ、および広告やカタログ、導入事例などBtoBコンテンツの制作。プライベートでは、井上円了哲学塾の第一期修了生として「哲学カフェ@神保町」の世話人、2020年以降は「なごテツ」のオンラインカフェの世話人を務める。趣味は考えること。

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